怒りやすいのはあなたが悪いのではありません
怒りやすかったり、イライラしやすかったりする自分に困っていらっしゃる女性は少なくないのではないでしょうか。私って性格悪い、、とまで思ってしまう人もいらっしゃるようです。特に月経前にそのようなことが起こりやすいとすると、それはあなたのせいではありません。ホルモンのせいです。
先日も触れましたが、月経前症候群(Premenstrual syndrome:PMS)の仕業です。
月経前症候群(Premenstrual syndrome:PMS)とは、月経前3-10日間の黄体期に続く精神的あるいは身体的症状で月経発来とともに減弱あるいは消失するもので、イライラ、のぼせ、下腹部膨満感、下腹痛、腰痛、頭重感、怒りっぽくなる、頭痛、乳房痛、落ち着きがない、憂鬱などの症状を呈することが多い(多い順)です。
PMSを有する女性の割合は高く、そしてイライラ、怒りやすくなるということを示した研究をご紹介します。
PMSと怒りの関連を示した論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6500841/
The relationship between premenstrual syndrome and anger.
Pak J Med Sci. 2019;35(2):515-520.
トルコの15~49歳の女性720名を対象とした横断研究。PMSの有無・程度と怒りの関係を調べました。
PMSはPremenstrual Syndrome Scale (PMSS)を用いて評価。PMSSとは44問からなる評価尺度で、評価項目として、抑うつ感情、不安、倦怠感、イライラ、抑うつ思考、痛み、食欲、睡眠、浮腫があり、総合点( 44-220)を算出。PMSSは得点が高いと、症状が強いことを示しています。
怒りはState-Trait Anger Scale (STAS)を用いて評価。STASは、34項目からなる評価尺度でConstant anger(恒常的な怒り)、Anger-in(うちに秘めた怒り)、Anger-out(言葉や表情に表出した怒り)、Anger Control(怒りのコントロール)のカテゴリーを含みます。
結果は、以下の通りです。
●PMSの有病率は約48%。
●PMSの女性は、PMSがない女性に比べて、
・Constant anger(恒常的な怒り)
・Anger-in(うちに秘めた怒り)
・Anger-out(言葉や表情に表出した怒り)
のスコアがいずれも有意に高く(怒りやすい)、また
・Anger Control(怒りのコントロール)
のスコアは有意に低かった(怒りをコントロールすることができない)。
●PMSのスコアと怒りのスコアが有意な関連を示した(PMSが悪いほど、より怒りやすい)。
このように、2人に1人がPMSを有し、PMSを有すると統計学的に有意に怒り易いということが示唆されました。
これは女性はもちろん、男性も十分に理解しておく必要があるでしょう。
怒りやすいと身体にも悪い
PMSによりなぜイライラしたり怒りやすくなるのか、詳しいことはわかっていないようですが、月経周期におけるホルモンの変化(エストロゲンやプロゲステロンの変動)が女性の気分に影響を与え、怒りやイライラなどのネガティブな感情を引き起こしていることは間違い無いでしょう。それら女性ホルモンの変動が、怒りと深く関連しているノルアドレナリンやアドレナリンといったホルモンとも関わりがあるものと推測されます。
あまり怒りすぎると身体への悪影響も生じます。
嬉しさ、悲しみ、怒り、恐怖などの感情のうち、最も血圧が上がり、心拍数も上がる感情は「怒り」です(Psychosom Med. 1981 Aug;43(4):343-64.)。それだけ身体にストレスがかかるということです。
激しく怒ると、様々な病気を発症するリスクが高くなるというデータもあります。
激怒後、2時間ほどの間に以下のような病気が( 怒らないときに比べて)発症しやすくなるそうです。( Eur Heart J. 2014 ;35(21):1404-10. )
・急性心筋梗塞 4.7倍
・脳卒中 3.6倍
・重症不整脈 2-3倍
PMSに心当たりがある人はお気軽に相談を
怒り感情が湧かないに越したことはありません。
PMSで最も多い症状が「イライラ」であり、これは当然「怒り」に通じます。月経前にイライラ、怒りやすい場合は、性格とか、心掛けとか、関係ありません。あなたのせいではありません。ホルモンのせいです。早々に、対策を講じると良いと思います。先日お話したように、ピラティスや、その他の運動、生活習慣是正に取り組んでいただき、それでも解決しない方、尚且つ婦人科受診はハードルが高い、、という方は当クリニックでもご相談に乗りますのでご予約いただければと思います。低用量ピル やその他薬剤のサポートも選択肢となります。最も良い対策を一緒に考えましょう。
男性の方もこのような背景は十分理解してあげましょう。