慢性心不全の方はヨガを試してみよう

投稿日: カテゴリー: ヨガ循環器



 「心不全」は、心臓の機能が低下し様々な症状(息苦しい等)や徴候(むくみ等)を呈する症候群です。
あらゆる心疾患、例えば心筋梗塞、心筋症、弁膜症などなど、病状が悪化すると全て心不全になり得ます。

高血圧や糖尿病、高脂血症など生活習慣病は全て心疾患になりやすく、つまり心不全にもなりやすくなります。また生活習慣病がなくとも、年齢が上がるにつれ心臓の筋肉が硬くなりますのでそれだけでも心不全になりやすくなります。

高齢化、生活習慣の欧米化などにより、心不全は増加しており社会問題にもなっています。「心不全パンデミック」という表現も見かけます。


そんな中、ヨガが慢性心不全の補助治療として有効かもしれないという研究をご紹介します。


Effect of Yoga Lifestyle in Patients with Heart Failure: A Randomized Control Trial.
Int J Yoga. 2022 Jan-Apr;15(1):40-44. 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35444368/


心不全患者におけるヨガの効果:無作為化対照試験




【背景】
心不全の治療には大きな進歩があるものの、罹患率や死亡率は依然高い。さらなる治療戦略が求められている。
ヨガが心不全の病態生理学的異常、すなわち神経ホルモン、自律神経系の障害、炎症、酸化ストレスを是正する可能性がある。



【目的】
慢性心不全患者におけるヨガの効果を検討する。



【対象者および方法】
安定した病状、比較的軽症(NYHA1-2)、心臓ポンプ機能軽~中等度低下(LVEF30-40%)の心不全患者60名が対象の無作為化比較試験。

対象者を、対照群(CG)とヨガ群(YG)に無作為に割り付けた。
CGはガイドラインに基づいた治療を受け、YGはそれに加えて毎日1時間、3ヶ月間ヨガを実践した。

YGは、ヨガインストラクターによるヨガトレーニング(アーサナ+プラナヤマ+瞑想)を1週間受けた後、自宅で毎日約60分のヨガを継続した。
各セッションは、
・10分間 思考を現在に集中させ、身体の内側に意識を向ける
・30分間 ヨガポーズ(アーサナ)
・20分間 呼吸法(プラナヤマ)を含む瞑想とリラクゼーション 


ベースライン時と3ヶ月後に、QOL、CRP、NTproBNP、LVEFを評価した。

QOLはMinnesota living with heart failure questionnaire(MLHFQ)  スコアで評価した。MLHFQスコアが低いほど、QOLが良いことを示す。

QOL:生活の質
LVEF:左心室駆出率=心臓のポンプ機能(値が高い方が良い)
CRP:炎症(値が低い方が良い)
NTproBNP:心臓に負担がかかると上昇するホルモン(値が低い方が良い)



【結果】
対照群(CG)とヨガ群(YG)両群の背景は類似。
平均年齢は両群ともに52歳、男性7-8割、女性2-3割。

12週間後、CGと比較して、YGでは4つのパラメータすべてに有意差が認められた(P < 0.01)。

MLHFQ:YG(22.7→10.2)はCG(21.0→14.1)と比較して有意に改善した(54% VS 33%, P < 0.001)。

LVEF:YG(33.4→36.8%)はCG(33.3→35.2%)と比較して有意に改善した(10% VS 5%、P = 0.001)。

NTproBNP:YG(755→220pmol/l)はCG(679→406pmol/l)と比較して有意に改善した(69.8% VS 39.3%, P < 0.001)。

CRP:YG(5.36→2.73 mg/L)はCG(5.39→3.45 mg/L)と比較して有意に改善した(49.3%VS 35.8%、P = 0.007)。



【結論】
このパイロット研究の結果は、慢性心不全患者に対するガイドラインに基づいた治療にヨガを加えることで、QOL、LVEF、NTproBNPが有意に改善し、CRP値が減少することを示唆するものであった。これらの知見を確認するために、より大規模な研究が必要である。



すごい効果。。。


ということで、慢性心不全治療にヨガを上乗せするとかなり効果的という結果でした。毎日1時間って結構大変ですけれど、それでも本当にこれほど良くなるのであればやる気も起きてきます。

ただ、ちょっと結果が良すぎませんか笑?という印象も拭えません。

対象者が少ない小規模で、かつ単一施設の研究ですので信頼性に限界はあります。完全な盲検も難しいですし、一部はプラセボ効果も含まれる可能性もあります。

とはいえ、心不全の人にとっては試してみる価値はありそうです。


なぜヨガが心不全に良いのか?


ヨガが心不全に好影響を与える機序は、この研究では明らかではありませんが以下のような考察をしています。


・いわゆる運動としてのメリット
筋力、持久力、柔軟性、酸素摂取量などの改善


・神経体液性因子の改善
心不全は、レニン、アンジオテンシン、コルチゾール、カテコールアミンなど、いくつかの神経ホルモンの増加と関連しています。ヨガは、視床下部-副腎-下垂体軸(HPA axis)を通してカテコールアミン、コルチゾール、一酸化窒素、アルギニン、バソプレシン、アルドステロン、心房性ナトリウム利尿ホルモンのレベルを減少させると報告されています。


・自律神経系の改善
心不全は交感神経活動の亢進と関連しています。ヨガは副交感神経活動を増加させ、交感神経活動を減少させるため、自律神経系のバランスを整えることにつながります。


・炎症と酸化ストレス
心不全は、IL-6、CRP、TNFα、レプチンなどの上昇を呈し、炎症と酸化ストレスに関連しています。ヨガがそれらを軽減する可能性があります。


・ストレスとうつの軽減
抑うつは、神経内分泌、自律神経のアンバランス、炎症など、いくつかのメカニズムを通して作用している可能性があり、心不全とも関連しています。ヨガはストレスとうつをコントロールするのに有用な方法と考えられています。


・抗不整脈作用
ヨガが心房細動、心室性期外収縮のエピソードを減らし、植込み型除細動器(ICD)のイベントを減らすことが報告されており、これらが心不全に有益である可能性があります。



まとめ


慢性心不全患者に対し、ガイドラインに基づいた治療に毎日1時間、3ヶ月間ヨガを加えることで、QOL、心臓のポンプ機能が向上、心臓の負荷が軽減、炎症反応が軽減し、心不全の病態改善が示唆されました。

慢性心不全の方は試してみると良いと思います。心不全病態改善以外にも、身体的、心理的に様々な好影響があることが多くの研究で示されていますし、試してみて損はないでしょう。

運動不足の方や、これまでやったことない方も、比較的取り組みやすく、続けやすいのがヨガの特徴でもあります。

上記研究の通り、初めはインストラクターに指導してもらうのが安全だと思います。こちらも参考にしてみてください。


Youtube
https://www.youtube.com/hashtag/zenplace


ヨガによく似たピラティスも選択肢かもしれません。

【参考文献】
Jain AK, Subhash CM, Bhola SV, Kushal M, Ashwini M, Jitendrapal SS. Effect of Yoga Lifestyle in Patients with Heart Failure: A Randomized Control Trial. Int J Yoga. 2022 Jan-Apr;15(1):40-44. doi: 10.4103/ijoy.ijoy_183_21. Epub 2022 Mar 21. PMID: 35444368; PMCID: PMC9015083.

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