外来で患者さんとお話ししていると、女性で習慣的に飲酒をされている方は少なからずいらっしゃいます。ご自身の飲酒量はどの程度なのか、それが多いのか、少ないのか、など客観的視点が乏しいケースが多いです。
中には、アルコール依存に近い状態でも、ご自身ではそれを認識されていない方もいらっしゃいます。
女性に関する飲酒のデータを見直してみましょう。
女性の「飲酒習慣者」は約10%
日本人の「飲酒習慣者」は男性で概ね30%、女性で10%ほどを推移しています。「飲酒習慣者」とは、週3日以上で、清酒に換算し1日1合以上(純アルコール換算で20g以上)飲酒する人と定義しています。
近年は若者のアルコール離れが言われていますが、このデータを見ると近年は概ね横ばいです。とはいえ、習慣的に飲酒している人は多くなく、マイノリティと言えます。特に女性は少ないです。
女性の「現在飲酒者」は約60%
一方「現在飲酒者」という切り口もあります。
「現在飲酒者」とは定義にばらつきはありますが、概ね調査前1ヶ月または1年間に1回以上飲酒した者、という感じであり、男性で80%、女性で60%ほどです。たまに飲む人は結構多いようです。
「現在飲酒者の割合の変化」
20代前半の女性は男性よりも飲酒機会が多い
これを年齢別にみると意外な発見があります。
20代-40代の若い世代での現在飲酒者は男性90%、女性80%ほどと全体的に高めを推移していますが、特に20代前半(20-24歳)では、女性の「現在飲酒者」は90%を超えており、男性より高くなっています。
飲酒は男性優位という印象が強いですが、若年世代の女性の飲酒は男性並み、あるいは男性以上に盛んなのですね。女性の社会進出はもちろんですが、おしゃれだったり一見健康的、爽やかなアルコール飲料、あるいはバーなどのアルコールを提供する飲食店の女性をターゲットとしたマーケティングの影響も大きいのではないかと思います。
女性の飲酒の問題点
飲酒に関して、女性特有の問題があることも忘れてはいけません。いくつか挙げてみます。
1. 女性は血中アルコール濃度が高くなりやすい
(1)アルコール分解速度が遅い
久里浜医療センターのデータによると、摂取したアルコールを体内で分解する速度は男性で平均8g/h、女性で平均6g/hだそうです。胃壁に存在するアルコール脱水素酵素の活性が男性よりも低いことが1つの理由と考えられています。いずれにしても、女性は男性よりも飲酒時のアルコール血中濃度が高くなりやすいと言えます。
(2)女性は体内の水分量が男性より少ない
摂取されたアルコールは体内で主に水分によって薄められます。女性は体内の水分量が男性より少ないため、同じ体重・同じ飲酒量であっても血中アルコール濃度が高くなりやすいのです。
血中アルコール濃度が高くなりやすいということは、当然、酔いやすいですし、急性アルコール中毒にもなりやすいということになります。
そして、アルコール依存症にも陥りやすいと言えます。女性は、若年で、短期間で依存症になりやすいのです。アルコール依存症治療で有名な久里浜医療センターの女性患者数は増加傾向にあると言います。
2. 女性はアルコール性肝障害を起こしやすい
女性は男性の半分の飲酒量で肝障害をきたすというデータがあります。( Hepatology. 1996 May;23(5):1025-9.)
その他にも、短期間で脂肪肝になりやすい、肝硬変の患者年齢が男性より10歳以上も若いなどのデータがあり、また動物実験でも雌の方が肝酵素の上昇が顕著というデータがあります。女性ホルモンが肝障害の発症に関与していると推測されていますが、正確な機序は不明です。
3. 飲酒で乳がんリスクが上昇する
多くの臨床研究で、アルコール摂取と乳がんリスク上昇が関連していることが示されています。例えば、Lancetという一流医学雑誌に発表された195の国と地域のデータを対象にした研究(Lancet. 2018 Sep 22;392(10152):1015-1035.)では1日1杯という少量の飲酒でも乳がんリスクが上昇すると結論しています。純アルコール50g/日ほどで、リスクはおおよそ1.5倍になります。
また、日本人女性約3万人を対象とした研究(Asian Pac J Cancer Prev. 2020 Jun 1;21(6):1701-1707. )でも同様の結果が得られており、飲酒する女性は飲まない女性に比べて乳がん発症リスクが1.46倍でした。週1回未満の飲酒でも乳がんリスクは、飲まない人に比べて約2倍に上昇しました。
4. 飲酒で受胎能力が低下する
女性のアルコール摂取は受胎能力の低下と関連しており、アルコール摂取量が12.5 g / 日増加する毎に直線的に2%づつ低下するとのデータがあります(Sci Rep. 2017 Oct 23;7(1):13815.)。
このほかにも、骨粗鬆症になりやすい、妊娠中に飲酒すると胎児異常(胎児性アルコール症候群)を呈するリスクが上がる、アルコール依存症と精神疾患が合併しやすい(重複障害)などの問題点があります。
女性の至適飲酒量
上記のLancetの論文(Lancet. 2018 Sep 22;392(10152):1015-1035.)から、健康のためには飲酒量はゼロがベストと考えられます。とはいえ、わずかなリスクがあろうとも、ちょっとは飲みたいと思う方もいらっしゃるでしょう。
どの程度までなら許容されるのでしょうか。
厚生労働省の言う「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコールで20g程度です。女性は上記のようにアルコールに脆弱ですから、この半量程度と考えられています。つまり10g/日程度です。
ビールなら350ml缶を1本弱、ワインならグラス1杯、日本酒なら半合程度です。
この程度のとどめて、食事や会話や雰囲気を楽しんでください笑。
少ない!!と感じる方こそ、要注意です。
たまになら飲んでも良いでしょ?
機会飲酒で、たまにならちょっと多めに飲んでも良いでしょ?と思うかもしれません。もちろん、ダメとは言いません。ただし、たまにでも飲み過ぎはお勧めできません。
上記のように女性は酔いやすく、急性アルコール中毒になりやすいですし、そうでなくとも何らかのトラブルに繋がりやすい、巻き込まれやすいので注意が必要です。
また、男性を含めたデータですが、不定期な大量飲酒(>60g)は虚血性心疾患のリスクを45%上昇させる(Am J Epidemiol. 2010 Mar 15;171(6):633-44.)など、機会飲酒であっても大量に飲むと身体的悪影響が生じます。
機会飲酒から習慣的な飲酒に繋がることも当然あり得ます。特にストレスが多い状況やメンタル的に不安定な場合に陥りやすいです。
先ほども少しだけ触れましたが、女性は気分障害(抑うつなど)や不安障害(社交不安障害、パニック障害など)など精神的問題とアルコール依存が併発する場合が多いことが知られています(JAMA. 1990 Nov 21;264(19):2511-8. )。
機会飲酒から習慣的飲酒、そして依存状態に繋がることも懸念されます。
ご自身で依存状態と認識していない依存状態の方がいることも問題点です。
ストレスフルな時や、メンタル不安定な時に、飲みたい気分になることは理解できますが、そのタイミングで飲酒することは推奨できません。
ここ、重要だと思います。繰り返します。
ストレスフルな時や、メンタル不安定な時に、飲酒することは推奨できません。
ストレスフルな時や、メンタル不安定な時に、飲酒することは推奨できません。
近年は、アルコール度数が高めの製品がコンビニなどでも容易に誰でもいつでも購入できてしまいます。誰でもアルコール依存に陥りうる罠が日常的な身近な環境に潜んでいます。それらのマーケティングに惑わされないことも重要です。
女性のアルコールのまとめ
・女性はアルコールに脆弱。
・20代前半女性の飲酒率は男性より高い傾向がある。
・女性は飲酒により、酔い易く、肝障害が生じ易く、乳がんリスクが上昇する。
・飲酒により受胎能力も低下する。
・女性のアルコール依存症は増加傾向で、精神的問題と併発することが多い
・ストレスフルな時、メンタル不安定な時の飲酒は避ける。
・純アルコール10g/日ほどが節度ある適度な飲酒量。
ノンアルコールで楽しむ人はとても良いと思います。
アルコールを楽しみたい人は、上記を念頭に入れて安全に楽しみましょう。
ついつい飲み過ぎてしまう、お酒をやめたい、減らしたい、など少しでもアルコール問題をお抱えの方はご相談ください。