新型コロナウイルス の感染予防 〜当たり前が大事〜

投稿日: カテゴリー: 医療一般

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新型コロナウィルス感染に関して不安を持ちの方も多いことでしょう。多くのメディアが煽っていますので、お気持ちは大変理解できます。正しい情報を元に、心配しすぎず正しく恐れることが大切です。

自分のクリニックの外来患者は、持病として心臓病をお持ちの方が多いです。循環器系の病気(心臓の病気)の持病を持つ人が新型コロナウイルス 肺炎に罹患すると死亡率は10.5%と他の持病と比べて最も高いリスクになっています(1)。最も罹患してはいけないそのようなハイリスクな方々に対して、日々お伝えしている心構えと予防対策は以下の通りです。

特別なことは言っていません。当たり前のことしか言っていません。

 

  1. 新型コロナウイルスに関連する情報は、公的機関から得る
  2. 人混みへの外出を控える
  3. 手洗い、手指消毒を徹底する
  4. 咳エチケットを心がける
  5. 生活習慣を整える(食事、運動、睡眠)

 

どこにでも書いてあるような当たり前のことですが、その当たり前が重要なのです。

各項目について、少しコメントを書きます。

 

 

 

1 新型コロナウイルスに関連する情報は公的機関から得る


テレビ(特にワイドショー)やSNS、インターネットなど様々なメディアで新型コロナウイルスに関する情報が氾濫していますが玉石混淆です。正しい良質な情報もありますが、デマ情報、明らかに間違った情報も多く、多くの国民が惑わされています。善意による情報拡散が行われ、しかしそれが誤った情報であり結果的にその善意が問題を生じさせてしまう事態もとても多いです(特にSNS)。誤った情報ということに気づいていませんので、拡散している本人も全く罪の意識はありません。医療界はこの事態をかなり問題視しています。医療関連情報の真偽を非医療者が判断することは困難です。また、厄介なことに医師だからと言ってその情報が正しいとは限りません。

 

一方で、厚生労働省や首相官邸、国立感染研究所などの公的機関の情報は基本的に信頼できる情報であり、これらに基づいて判断、行動することを強くお勧めします。もちろん、それらの情報が100%正しいとは言えませんが大外しはありません。

 

公的機関の例

 

厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/index.html

国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/

首相官邸 https://www.kantei.go.jp/

内閣官房 https://www.cas.go.jp/jp/influenza/novel_coronavirus.html

 

国際的には世界保健機関(WHO: World Health Organization)やアメリカ疾病管理予防センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)の情報は信頼性が高いです。

気になる情報を目にした時は、その情報の出典、一次情報(論文)が何なのかを確認し、それを吟味すると良いと思います。

情報の出典が明らかでないものは信頼に値しないと考えてください。

 

 

 

2 人混みへの外出を控える


当然ながら、不要不急の人混みへの外出は控えることが無難です。

新型コロナウイルス は、飛沫感染と接触感染により広がりますので、人混みへの外出は当然その機会が増えます。どうしても行かなければいけない場合は、最小限の時間にしましょう。

特にライブハウスや屋形船、バス、クルーズ船といった換気の悪い閉鎖空間での感染例が多く報告されており、このような場所は感染リスクが高いと言えます。ビュッフェスタイルの食事で料理を取る際にトングを共有する場合、接触感染を助長します。

 

一方で、全く外出せずに家にこもっていることも心身の衛生上決して好ましいことではありません。例えば公園などの屋外の散歩やジョギングはウイルス感染のリスクはほぼありませんので、これまで通り行って頂ければと思います。その際は、下記の手洗い徹底を意識しておくことが大切です。

 

 

3 手洗い、手指消毒を徹底する


新型コロナウイルス は、飛沫感染と接触感染により広がりますが、接触感染が主体と考えられています。したがって、手洗い、手指消毒は極めて重要です。

手洗いの実践についてお尋ねすると、多くの方が「やっています」「大丈夫です」とお答えになります。当たり前すぎてみな耳にタコができていることでしょう。

しかしながら、恐らく多くの人が「適切な」手洗いが出来ていないと僕は思っています。医療従事者である自分自身も意識し続けていないと実践は難しいと感じていますし、周囲を見ていてもただ手を濡らしたようなだけでとても手洗いとは言えない方法も横行しています。

多くの医療者は、適切な手洗いをすることがいかに難しいことかわかっています。蛍光塗料を手に塗った(通常目には見えないが、特殊な光を当てると可視できる)上で手洗いをして、どのくらいその塗料が洗い落とされているのか、残っているのか、という自分の手洗いスキルの評価を医療機関ではしばしば行います。(2) 適切に手洗いをしたつもりでも意外と洗えていないことがわかるのです。「やっている」「わかっている」は「できている」とは異なるのです。

 

手のひら、手の甲、指、特に親指、指の間、指先、手首をよく洗いましたか?30秒間洗いましたでしょうか? 30秒洗うことで手についた細菌が1/60-1/600くらいに減少するとの報告があります。15秒ですと1/4-1/13くらいです。(3)

洗った後、清潔なタオルなどで水分を拭き取って乾かしましたか?濡れている部分に菌が付着残存していることが多いので、その濡れた手で他のものを触ると菌が伝播する可能性があります。

ぜひ、手洗いのパンフレットや動画を今一度確認いただいて、自分の手洗いスキルを確認、向上、そして実践していただければと思います。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000593494.pdf

https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg20343.html

 

4 咳エチケットを心がける


咳を1回すると約10万個、くしゃみを1回すると約200万個の小粒子(飛沫)が飛散すると言われています(国立感染症研究所感染症情報センター)。「咳エチケット」は、感染症を他人に感染させないために、咳・くしゃみをする際に、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえることです。つまり、自分が感染しないようにするというよりは、周りに感染させないようにする意味合いが強いです。社会的生物としてのマナーです。

 

咳エチケットも手洗いと同様多くの人が「やっています」「大丈夫です」とお答えになります。

しかし、電車の中など街中で見かける限り、出来ていない人がとても多い印象を受けています。

しつこいですが「やっている」「わかっている」は「できている」とは異なります。

咳やくしゃみの際、口を手で抑えていませんか?やむなく手で抑えた場合、その手にはウイルスや細菌が多数付着しています。その手をすぐに洗っていますか?

ぜひ、咳エチケットのパンフレットを今一度確認いただいて、自分の咳エチケットスキルを確認、向上していただければと思います。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html

 

なお、マスクも咳エチケットの1つに入ります。

通常のマスクは、自分が他の感染者の方からの感染を防ぐ効果はほぼありません。

自分が、咳やくしゃみをした時に他の方に飛沫を飛散させないようにする役割です。

したがって、咳もくしゃみも出ない健康な人がマスクをする意味はあまりありません。WHOは、そのような人のマスクのルーチンの使用は推奨していません。また、マスクにはウイルスや菌が付着していますので、こまめに変えたほうが良いですし、マスクの外側を手で触ることで、そのウイルスや菌が手について接触感染につながることがあります。

 

 

 

5 生活習慣を整える(食事、運動、睡眠)


これも当たり前ですが、バランスの良い食事をとり、よく身体を動かし、よく寝ることが身体の抵抗力を高めます。

新型コロナウイルスではありませんが、類似の感冒の原因ウイルス感染への影響を検討している論文はたくさんあります。

バランスの良い食事をとっている人は、感冒に罹患しずらいことを示唆する研究があります(4)し、

よく運動をする人が感冒に罹患しずらいことを示した論文も複数存在します。(5)

また、ある日本の高齢者の研究では、習慣的に1日1時間以上ウォーキングする人の肺炎死亡リスクが低いことが示されました。(6)

つまり基本的に運動習慣のある人が感染症にかかりづらい、重症化しづらい可能性が高いと言えます。新型コロナウイルス感染は肺炎を続発しやすいことが特徴ですが、重症化する人、しない人の差はこのあたりにもあるかもしれません。

7時間以上の睡眠時間が感冒の予防には最適です。それより睡眠時間が短ければ短いほど感冒に罹患する確率が上がります。(7)

別の研究では7時間未満の睡眠時間の人は、8時間以上の人よりも感冒に罹患する確率が2.94倍で、睡眠効率(布団に入っていた時間に対する眠っていた時間の割合)が92%未満の人は、98%以上の人よりも5.5倍感冒に罹患しやすかったという結果でした。(8)

 

 

 

 

1-5は、どれも当たり前のことで、誰もがどこかで耳にしたことのあることばかりです。

それぞれに、それなりの科学的根拠があり、そしてそんな当たり前のことこそが大事なのです。そしてしつこいですが、「知っている」ことと「出来ている」ことは異なります。

 

ぜひ、本気で実践しつつそれを各々が周囲に啓蒙、普及させていって頂ければと思います。

一人一人の心がけとその実践が、社会の安定を促しやハイリスクの方々の命を救うのです。

 

(2020.3.10 )

 

【参考文献】

 

  1. Guan WJ, Ni ZY, Hu Y, et al. Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020.

 

  1. 地嵜 悠吾, 中村 暢彦, 濵武 清範, 川田 将義, 石川 誠司, 矢野 義孝, 蛍光測定を利用した新しい手指衛生手技評価法, 医療薬学, 2013, 39 巻, 4 号, p. 251-256

 

  1. Rotter M. Hand washing and hand disinfection [Chapter 87]. In: Mayhall CG, ed. Hospital epidemiology and infection control. 2nd ed. Philadelphia, PA: Lippincott Williams & Wilkins, 1999.

 

  1. Shibata M, Iwane T, Higuchi R, Suwa K, Nakajima K. Potential common factors associated with predisposition to common cold in middle-aged and elderly Japanese: A community-based cross-sectional study. Medicine (Baltimore). 2018;97(20):e10729. doi:10.1097/MD.0000000000010729

 

  1. Lee HK, Hwang IH, Kim SY, Pyo SY. The effect of exercise on prevention of the common cold: a meta-analysis of randomized controlled trial studies. Korean J Fam Med. 2014;35(3):119–126. doi:10.4082/kjfm.2014.35.3.119

 

  1. Ukawa S, Zhao W, Yatsuya H, et al. Associations of Daily Walking Time With Pneumonia Mortality Among Elderly Individuals With or Without a Medical History of Myocardial Infarction or Stroke: Findings From the Japan Collaborative Cohort Study. J Epidemiol. 2019;29(6):233–237. doi:10.2188/jea.JE20170341

 

  1. Prather AA, Janicki-Deverts D, Hall MH, Cohen S. Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. Sleep. 2015;38(9):1353–1359. Published 2015 Sep 1. doi:10.5665/sleep.4968

 

  1. Cohen S, Doyle WJ, Alper CM, Janicki-Deverts D, Turner RB. Sleep habits and susceptibility to the common cold. Arch Intern Med. 2009;169(1):62–67. doi:10.1001/archinternmed.2008.505

 

 

 

 

 

 

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