脳卒中リハビリにおけるピラティスの有効性

投稿日: カテゴリー: ピラティス

脳卒中後のリハビリとピラティスに関して調べる機会がありましたので、こちらでもご紹介いたします。雑多な情報になっておりますが、脳卒中を患った方、またそのようなご家族やおお知り合いがいらっしゃる方は参考にされると良いかと思います。2022年、2019年の系統的レビュー、小研究5つです。

結論を言いますと、
系統的レビューでは静的動的バランスの改善、歩行速度の改善が示されました。

小研究では歩行能力、心肺機能、QOL、上肢の筋活動、静的動的バランスの改善が示唆されています。


■系統的レビュー

① 脳卒中患者のバランス、歩行、下肢運動機能に対するピラティスエクササイズの効果:メタアナリシス

https://www.tmrjournals.com/article.html?J_num=11&a_id=408

Ya-Nan Leng ,Min Zhang ,Yu-Qi Li, et al.. Effects of Pilates exercise on balance, walking and lower limbs motor function in stroke patients: A meta-analysis. Med Data Min. 2019;2(3):110-117.

【背景】

2019年に米国脳卒中協会(ASA)が発表したガイドラインによると、米国では毎年約80万人が新規または再発の脳卒中を発症する。2030年には、成人の脳卒中患者数は340万人になると推定されている。中国では最も一般的で致命的な疾患であり、その発症率は11.2%。患者は多くの場合、複数の機能障害、特に運動機能障害を生じる。

脳卒中患者におけるピラティスエクササイズに関するエビデンスはまだ確定していない.

【目的】

脳卒中患者のバランス、歩行、下肢運動機能に対するピラティスエクササイズの効果を系統的に評価すること。

【方法と結果】

各種文献データベースにて、脳卒中患者のバランス、歩行、下肢運動機能に対するピラティスエクササイズの効果に関する無作為化比較試験(RCT)を検索した。データは2名の研究者が独立して収集・評価した。そして、RevMan 5.3 ソフトウェアを採用し、メタ解析を実施した。

結果は以下の通りである。合計5つのRCTが含まれ、182人の被験者が選ばれた。その結果,通常ケア群と比較して,ピラティスエクササイズは,8週間トレーニングした場合,脳卒中患者のバランスを効果的に改善することができ[MD=4.71,95%CI (2.14, 7.28),P=0.0003],TUG (Timed Up and Go) テスト時間を短縮し[MD=1.63,95%CI (-2.69, -0.56),P=0.003], 歩行速度を向上させる[MD=3.83,95%CI (1.43, 6.23),P=0.002] ことが示された.

しかし,脳卒中患者のFugl-Meyer Assessment-Lower Extremity(FMA-LE)スコアの増加に関するピラティス運動の有効性は支持されなかった[MD=6.70,95%CI (-3.46, 16.86),P=0.20 ].

※ Fugl-Meyer assessment:上肢運動機能66点、下肢運動機能34点、バランス14点、感覚24点、関節 可動域・疼痛88点からなる脳卒中の総合評価。

【結論】

ピラティスは脳卒中患者のバランスと歩行速度を改善することが示唆された。しかし,下肢機能改善に関するエビデンスはまだ不足している.脳卒中患者におけるピラティスエクササイズの効果を検討するために,質の高い研究を実施する必要がある.



② 脳卒中のバランスに対するピラティス・エクササイズの効果:システマティックレビュー

https://biomedicineonline.org/index.php/home/article/view/93

Kavitha Ganesan, Kumaresan A., Prathap Suganthirababu. Effects of Pilates exercise on balance in stroke: A systematic review. Biomedicine (2022) 40(1):20-4.

【背景】

脳卒中後遺症ではバランス感覚が損なわれることがよくある。 従来の脳卒中リハビリテーションプログラムによる機能再教育では、あらゆる脳卒中症例においてこの障害を克服することは難しい。

【目的】

本研究の目的は、脳卒中のバランスリハビリテーションにおけるピラティスの効果を系統的にレビューすること。

【方法と結果】

研究対象は、無作為化または準無作為化対照臨床試験研究で、MMSE評点による認知レベルが24~30以上、かつ歩行可能な被験者とした。134研究が候補として挙がったが、条件に合致する3研究(n=51)を対象とした。

対象者はピラティスのみ(マットピラティス)10人、バランス運動+ピラティス17人、運動なしの対照群9人、バランス運動のみ15人。ほとんどが脳梗塞慢性期。

介入は、バランスの改善を目的としたピラティスの治療的エクササイズに焦点を当てた。アウトカムは、静的バランスと動的バランスであった。

Lourembamらの研究では、ピラティスを実施した患者と従来のエクササイズを実施した患者で、機能バランスとQOLのアウトカムに有意な改善が見られた。

Satheらの研究では、バランスは安定限界(LOS)の変数で決定され、反応時間(秒)、最大動揺(%)などのコンポーネントでピラティス研究を受けた患者で有意な変化があった。

Limらの研究では、ピラティスエクササイズを受けた患者は、コントロール群よりも静的および動的バランスが改善されることが示された。

ピラティスのエクササイズは、脳卒中のリハビリテーションにおいて、静的および動的バランスにプラスの効果があることが示唆されたが、確たるエビデンスとするには十分ではない。

【結論】

ピラティス運動は脳卒中リハビリテーションにおける静的および動的バランスにプラスの効果が期待できる。更なる良質な研究が必要。


■ 歩行能力の改善


慢性脳卒中患者の歩行における8週間マットピラティスの効果

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5080188/

Roh S, Gil HJ, Yoon S. Effects of 8 weeks of mat-based Pilates exercise on gait in chronic stroke patients. J Phys Ther Sci. 2016;28(9):2615-2619. doi:10.1589/jpts.28.2615

【目的】

8週間のピラティス運動プログラムが慢性片麻痺患者の歩行に及ぼす影響を調査し、後遺症患者のリハビリテーションに利用できるかどうかを検討すること。

【対象と方法】

片側慢性片麻痺の脳卒中患者20名(年齢、66.1±4.4歳、身長、162.3±8.3cm、体重、67.4±12.3kg)が参加し、ピラティス群または対照群にランダムに等配置された。ピラティスエクササイズの効果を確認するため、8台の赤外線カメラによる3次元動作解析を実施した。

【結果】

歩行パラメータについては、すべての変数でピラティス運動群に改善が見られ、歩幅、歩行速度、膝関節可動域、股関節可動域で統計的有意性が認められた。非対称性指標については、ピラティスエクササイズ群では、すべての変数で有意な改善が認められた。

【結論】

8週間のピラティス運動プログラムは、脳卒中後の患者の歩行能力の改善に良い影響を与え、トレーニングの強度を調整することにより、様々なレベルの身体障害を持つ脳卒中後の患者に介入することが可能であることがわかった。



■ 心肺機能の改善


脳卒中患者の心肺機能に及ぼすピラティス運動の効果:無作為化比較試験

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28603381

Lim HS, Yoon S. The effects of Pilates exercise on cardiopulmonary function in the chronic stroke patients: a randomized controlled trials. J Phys Ther Sci. 2017 May;29(5):959-963. doi: 10.1589/jpts.29.959. Epub 2017 May 16. PMID: 28603381; PMCID: PMC5462708.

【目的】

慢性脳卒中患者の心肺機能に及ぼす修正ピラティス運動の影響を検討することである.

【対象者および方法】

20名の参加者(年齢62.7±7.3歳、身長163.3±8.5cm、体重68.8±10.3kg)を、無作為に修正ピラティス運動群(n=10)または対照群(n=10)に割り付けた。 最大酸素摂取量に基づく患者の心肺機能の状態を調べるために、患者の運動耐容能限界を超えた段階的最大下トレッドミル運動負荷試験を行った。

【結果】

安静時心拍数、最大酸素摂取量、キログラムあたりの最大酸素摂取量は、ピラティス運動を8週間行った後、有意な差が見られた。また、これらの変数は、8週間後にピラティス群と対照群との間でも有意な差が認められた。

【結論】

8週間の修正ピラティス運動プログラムは、慢性脳卒中患者に対して、心肺機能を高めることにより、機能的能力の向上に良い影響を与える可能性があることが実証された。



■ QOLの改善


ピラティストレーニングが脳卒中慢性患者のQOLに及ぼす影響

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29184300/

Yun SM, Park SK, Lim HS. Influence of pilates training on the quality of life of chronic stroke patients. J Phys Ther Sci. 2017 Oct;29(10):1830-1835. doi: 10.1589/jpts.29.1830. Epub 2017 Oct 21. PMID: 29184300; PMCID: PMC5684021.

【目的】

ピラティストレーニングが慢性期脳卒中患者のQOLに与える影響を観察することを目的とした。

【対象者および方法】

40名の慢性期脳卒中患者が本研究に参加した。同数の実験群(EG)と対照群(CG)に分けた。実験群は週2回、12週間、60分のピラティストレーニングに参加し、対照群は期間中、運動関連の活動を行わず、一般作業療法に参加した。そして、ピラティストレーニングの前後でMMSE-Kを実施し、ピラティストレーニングが慢性脳卒中患者のQOLに及ぼす影響を観察した。

【結果】

トレーニング後のEGでは、身体的領域、社会的領域、心理的領域において統計的に有意な改善が確認された。CGでは、QOLの3領域すべてにおいて統計的に有意な差は認められなかった。EGはCGと比較して、すべてのQOLの領域で統計的に有意な改善が見られた。

【結論】

ピラティストレーニングへの参加は、脳卒中患者のQOLを効果的に改善することが明らかになった。ピラティストレーニングは、患者の身体能力に合わせた低・中強度の抵抗と反復を行い、身体能力を向上させQOLに影響を与える改善運動プログラムとなり得る。



■ 上肢の筋活動の改善


脳卒中患者の上肢筋力活性化に対する両側トレーニングの効果に関する研究

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28174466/

Lim KM, Jung J, Shim S. The effect of bilateral trainings on upper extremities muscle activation on level of motor function in stroke patients. J Phys Ther Sci. 2016 Dec;28(12):3427-3431. doi: 10.1589/jpts.28.3427. Epub 2016 Dec 27. PMID: 28174466; PMCID: PMC5276775.

【目的】

本研究は、上肢の回復度に応じた患肢と非患肢の筋活動レベルを、合掌による両側運動とピラティスリングによる両側運動で比較検討することを目的とした。

【対象および方法】

脳卒中の入院患者20名を対象とした。Fugl-Meyer運動機能評価得点により、中等度回復群と良好回復群の2群に分けた。上肢の筋活動量とCo-Contraction Ratio(CCR)を分析した。

【結果】

良好群の筋活動量では、ピラティスリングによる活動時に、患側の僧帽筋、三角筋前部、上腕三頭筋、両側の上腕二頭筋が合掌による活動時より有意に高くなった。両側のCCRは、良好回復群ではピラティスリングの活動中に有意に減少し、中等度回復群ではピラティスリングの活動中に患側のCCRが有意に減少した。

【結論】

ピラティスリングによる両側の活動は、脳卒中患者の筋肉の活性化と協調を促進し、手を組む活動よりも効果的であることがわかった。



■ 静的動的バランスの改善


慢性脳卒中患者の静的および動的バランスに対するピラティス運動トレーニングの効果:無作為化比較試験

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27390424/

Lim HS, Kim YL, Lee SM. The effects of Pilates exercise training on static and dynamic balance in chronic stroke patients: a randomized controlled trial. J Phys Ther Sci. 2016 Jun;28(6):1819-24. doi: 10.1589/jpts.28.1819. Epub 2016 Jun 28. PMID: 27390424; PMCID: PMC4932065.

【目的】

慢性脳卒中患者の静的および動的バランスに対するピラティスエクササイズの効果を分析すること。

【対象者および方法】

片側慢性片麻痺の脳卒中患者19名(年齢、64.7±6.9歳、身長、161.7±7.9cm、体重、67.0±11.1kg)をピラティス運動群(PG、n=10)と対照群(CG、n=9)にランダムに割付けた。 PGは8週間にわたり24回の運動セッションに参加した(3セッション/週)。運動プログラムの1週間前と1週間後にCenter of pressure (COP) swayとCOP velocity を測定し、トレーニング効果を評価するために比較した。

【結果】

ピラティス運動は、慢性期脳卒中患者の静的・動的バランスに正の影響を与えた。静的バランスについては、トレーニング後、PGでは内側-外側(M-L)および前-後方向(A-P)のCOP swayとCOP velocity が有意に減少したが、CGでは有意差は認められなかった。トレッドミル歩行で測定した動的バランスでは、PGは麻痺脚、非麻痺脚ともにM-L、A-P方向のCOP swayと速度が有意に減少していた。

【結論】

本研究結果は、ピラティス運動が慢性脳卒中患者の静的および動的バランスを向上させることができるという最初のエビデンスである。



まとめ

ピラティスの研究はそのほとんどが小規模研究で研究の質も高くありません。従って、その解釈には限界はあるもののご紹介したような有効性も期待できるわけです。

脳卒中後のリハビリに関しては医療機関でよく相談することが原則です。

医師の指示により医学的対処を受けた上で、補完的な手段としてピラティスを活用することは悪くないと思います。

脳卒中への特異的効果のみならず、心身に様々なメリットも期待できます。

いつも申し上げていますが、ヨガ、ピラティスは、誰でも、どこでも、自宅でも、道具もなく実践できます。外出しづらいコロナ時代には相性の良いエクササイズです。

初めはインストラクターに指導を仰ぐことが良いと思います。

Zen Placeのピラティスも良いと思います。
https://www.zenplace.co.jp/pilates/


とりあえず、Youtubeで色々みてみてはいかがでしょう。
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