前回、ヨガが心臓リハビリとして有効かもしれないという趣旨の論文を取り上げました。
ヨガで気軽に心臓リハビリ
もう1つ心臓リハビリとしてのヨガの有効性を示唆した新しい論文がありましたのでご紹介します。
心臓リハビリテーション患者の心臓の血行動態パラメータと身体能力に及ぼすハタヨガの効果
Effects of Hatha Yoga on Cardiac Hemodynamic Parameters and Physical Capacity in Cardiac Rehabilitation Patients.
J Cardiopulm Rehabil Prev. 2020;40(4):263-267.
目的:
標準的な心臓リハビリテーション(cardiac rehabilitation ;CR)プログラムにハタヨガ(Hatha yoga)を追加し、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の心臓血行動態パラメータと身体能力に及ぼす効果を評価する。
経皮的血管形成術(PCI)(STEMIの標準的治療)で治療を受けた45~65歳の男性STEMI患者。以下に合致している70名を対象とした。
・心筋梗塞後1-2ヶ月以内
・合併症を伴わないSTEMI
・症状や治療法が安定している
除外基準は以下の通り。コントロール不良の高血圧、不安定狭心症、コントロールできない不整脈、伝導障害、下肢損傷、重症末梢動脈疾患、癌、中枢神経系または末梢神経系疾患、左室駆出率(LVEF)が35%以下、CRプログラムの前の負荷テストの結果、運動耐容能7METs以下。
患者は標準的なCR(対照群)と標準的なCRにハタヨガを加えたもの(ヨガ群)に無作為に割り付けられた。トレーニングプログラムは両群ともに24日間で構成され、1日目と24日目は各検査(心電図、トレッドミルテスト、心エコー検査)が行われた。残りの22日間で標準的心臓リハビリテーション(対照群)と、標準的心臓リハビリテーション+ハタヨガ(ヨガ群)を行った。
ハタヨガのプログラムは以下の通り。
easy pose (sukha ̄sana) 1 min;
breathing exercises (pranayama) 5 min;
sun salutation (surja-namaskar) 5 min;
yoga relaxation (s ́ava ̄sana) 2 min;
supported shoulder stand (sarvanga ̄sana) 1 min;
fish pose (matsya ̄sana) 1 min;
head knee pose (ja ̄nu-s ́irsa ̄sana) 1 min;
cobra (bhujangasa ̄na) 1 min;
sitting half spinal twist (ardha-matsyendra ̄sana)1 min;
standing forward bend (utta ̄sana) 1 min;
extended triangle pose (utthita trikona ̄sana) 1 min;
yoga relaxation (s ́ava ̄sana) 5 min;
breathing exercises (pranayama) 4 min;
easy pose (sukha ̄sana) 1 min.
介入前後(1日目と24日目)で各パラメーターを測定した結果、
体重とBMは、対照群よりヨガ群が有意に改善した。
Body Mass,kg (p=.00002 )
ヨガ群 87.7 ± 7.28 →86.3 ± 7.93
対照群 92.1 ± 19.23→92.3 ± 19.5
BMI,kg/m2 (p=.00003 )
ヨガ群 28.2 ± 1.7→ 27.8 ± 1.9
対照群 29.4 ± 4.7→ 29.5 ± 4.6
左室駆出率(LVEF)は、、対照群よりヨガ群が有意に改善した。
LVEF,% (p=.0027 )
ヨガ群 45.3 ± 7.3→48.8 ± 7.2
対照群 50.5 ± 6.4→51.9 ± 4.7
身体能力は、対照群よりヨガ群が有意に改善した
Test duration, min (p=.00044)
ヨガ群 5.7 ± 1.4→7.7 ± 1.1
対照群 6.6 ± 1.4 →7.3 ± 1.0
MET, mLO2/kg/min (p=.00048 )
ヨガ群7.4 ± 0. 4→8.8 ± 0.7
対照群7.7 ± 1.24 →7.9 ± 1.2
V ̇ o2peak, mLO2/kg/min (p=.00003 )
ヨガ群32.5 ± 2.8→ 37.4 ± 2.7
対照群36.6 ± 3.7→39.3 ± 3.8
血圧や心拍数は、心臓のサイズは両群で改善したが群間に有意差はなかった。
ハタヨガを含めた心臓リハビリプログラムの方がより効果的であることが示唆された。
ヨガの心臓への好影響の機序
ヨガの心臓への好影響の機序に関しては
前回取り上げた論文でも言及していましたが、この論文でも同様の意見を示しています。すなわち、
ヨガの効果は、迷走神経の刺激、ストレスの知覚軽減、筋骨格系の刺激と関連している可能性です。これらは特に虚血や再梗塞のリスクのある患者にとって非常に重要であるとしています。ストレスを軽減が 心臓の機能の改善やバランスの適正化、そして血圧の改善につながる可能性を指摘しています。ヨガのポーズ(アーサナ)、呼吸(プラナヤーマ)、リラクゼーションの組み合わせは、交感神経の活性化を減少させ、心室充満圧の低下につながる可能性もあります(J Card Fail. 2008;14(5):407-413)
ヨガ・ピラティス推し
前回も申し上げましたが、ピラティスは、ヨガ同様呼吸を重視し、瞑想的要素も多分に有していますので、ヨガに非常に近いエクササイズと思います。したがって、上記の研究と同等な効果がピラティスでも期待できるのではないかと個人的には考えています。
ヨガやピラティスは、実践する人により負荷を柔軟に調整することができ、ごく軽い負荷でも実践可能です。特別な器具は必要ありません。通常の有酸素運動よりもスペースも少なくて済みます。正しく行えば副作用もほぼありません。慣れれば、自宅でも実践可能ですし、オンラインの活用も容易です。
当クリニックは、ヨガやピラティスを推奨しています。zen placeというヨガ、ピラティススタジオと連携しています。布施自身はピラティスを実践しています。
zen place
https://www.zenplace.co.jp/
zen placeオンライン
https://www.zenplace.co.jp/videos
心筋梗塞を患った方はリハビリの一環としてヨガやピラティスを行ってみてはいかがでしょう。心臓病でない方々も勿論おすすめです。新型コロナウイルス感染という面においても、心身を鍛えることで感染への抵抗力が増しますし、自粛による運動不足の解消にも繋がります。
まずは経験豊富な指導者から正しいやり方を学んで、その後自宅でオンラインで気軽に楽しむのが良いかと思います。
【参考文献】
・Grabara M, Nowak Z, Nowak A. Effects of Hatha Yoga on Cardiac Hemodynamic Parameters and Physical Capacity in Cardiac Rehabilitation Patients. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2020;40(4):263-267. doi:10.1097/HCR.0000000000000503
・Pullen PR, Nagamia SH, Mehta PK, et al. Effects of yoga on inflammation and exercise capacity in patients with chronic heart failure. J Card Fail. 2008;14(5):407-413. doi:10.1016/j.cardfail.2007.12.007