鉄不足が失神やめまい、立ちくらみと関係する?

投稿日: カテゴリー: 医療一般

朝の電車の中や朝礼で立っているときに気分が悪くなり座り込んでしまったり、ふらついたり、失神してしまうような方がしばしばいらっしゃいます。日常的にめまいや立ちくらみといった症状が生じる方もいらっしゃいます。神経内科や循環器内科、耳鼻科など医療機関を受診し、血圧を上げる薬や、めまいの薬、あるいは漢方薬など試してみても今一つ効果が上がらず、解決しないことも少なくありません。

少しでも症状を軽減する方法はないのでしょうか?

その手掛かりになる様な研究があります。

 

鉄不足が失神やめまい、立ちくらみなどと関連する可能性


朝の朝礼で倒れてしまう様な病態の多くは「神経調節性失神」という病態です。この神経調節性失神と鉄不足の関連について、2008年に行われたある研究( J Pediatr. 2008 Jul;153(1):40-4)が行われました。失神を生じた19歳未満の小児〜若者106人を対象とし、神経調節性失神を生じたと思われる群(71人)と、その他の原因の失神の群(35人)に分けて比較検討しています。

結果としては、両群の血清フェリチン値は神経調節性失神を生じたと思われる群の方が有意差を持って低く(27 vs 46 ng/ml、P < 0.001)、血清フェリチン値≦25ng/mlと定義された鉄不足の人の割合が、神経調節性失神が生じた人では57%を占め、他の原因の失神が生じた人の3倍以上の割合でした(57% vs 17%、P < 0.001)。また、米国の同年代の正常集団の4倍以上でした。

神経調節性失神群のヘモグロビン値は13.3±1.1g/dl、その他の失神群は14±1.2g/dlで両者に有意差はあるものの(P<0.05)、両群ともに「貧血」は呈していません。この研究で最も低かったヘモグロビン値は11.11g/dlでした。

 

この研究では、貧血の有無にかかわらず(ヘモグロビン値にかかわらず)、鉄不足は神経調節性失神と関連していることが示唆されました。

 

鉄不足が失神、めまい、ふらつきに関与するメカニズム


鉄不足がめまいやふらつきといった症状を含め、神経調節性失神に関与するメカニズムはまだ明らかにはなっていませんが、いくつか仮説は立てられています。

1. カテコールアミンの代謝異常

カテコールアミンとは血圧調整などに深く関わっている複数の神経伝達物質の総称です。カテコールアミンの合成および分解に関与する多くの酵素が適切な機能するためには十分な鉄が不可欠です。この代謝異常により脳血流が低下が惹起される可能性。

2. 末梢血管抵抗の低下

カテコールアミン以外のメカニズムも含め末梢血管抵抗を低下させ、低血圧や失神を来す可能性。

3. 内臓の血管拡張による血液プールの増加

貧血では内臓の血管の拡張が優先的に起こることが示唆されており、また失神ではNO(一酸化窒素)の増加も示唆されています。これらが関与している可能性も。

 

これらのいずれか、あるいは併存しつつめまい、ふらつき、失神などの症状を惹起するのかもしれません。

 

難しい話ですが、要するに


ちょっと難しい話になってしまいましたが、要は鉄不足は失神やめまい、立ちくらみなどの原因や増悪因子になっている可能性があるということです。

その様な症状でお困りの方で、鉄やフェリチン(貯蔵鉄の指標)を測定していない方は、測定してみると良いかもしれません。鉄不足の場合、鉄剤を内服することでがその症状が改善するというエビデンスは明らかではなりませんが、試してみる価値はあると思います。

クリニック受診頂ければ、ご相談に乗ります。

 

 

 

 

【参考文献】

・Jarjour IT, Jarjour LK. Low iron storage in children and adolescents with neurally mediated syncope. J Pediatr. 2008 Jul;153(1):40-4. doi: 10.1016/j.jpeds.2008.01.034. Epub 2008 Mar 19. PMID: 18571533.

・Stewart JM. Reduced iron stores and its effect on vasovagal syncope (simple faint). J Pediatr. 2008;153(1):9-11. doi:10.1016/j.jpeds.2008.03.010

 

 

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