接種後胸痛「新型コロナワクチン接種後症候群」→それでもワクチン接種推奨

投稿日: カテゴリー: 医療一般循環器



以前も触れましたが、相変わらず、新型コロナウイルスのワクチン接種後に胸痛や動悸を自覚し受診される方が多いです。


“COVID-19 Vaccination Syndrome” 「新型コロナワクチン接種後症候群」って感じです。(勝手に名づけました)


厚生労働省の資料から、コミナティ(ファイザーのワクチン)による一般的に多い副反応は、以下の通りです。
https://www.mhlw.go.jp/content/000805694.pdf



コミナティの添付文書の副反応記載は以下。
https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/672212000_30300AMX00231_B101_1.pdf




当クリニックは循環器内科主体ですので、心臓絡みの症状の方の受診が多くなります。具体的に多い症状は、

・胸痛
・動悸
・息切れ
・倦怠感


など。


倦怠感はともかく、胸痛、動悸、息切れといった胸部症状の記載は添付文書等には明記されていません。それだけ頻度が少ないということなのでしょうか。



ワクチン接種当日〜2-3日後くらいから症状が出現します。

その直後に受診される方もいらっしゃいますし、1週間ほど経過を見ても治らずに来院される方もいらっしゃいます。


当クリニックを受診される方は、男性よりも女性が多いです。
高齢者ではなく、20-40代くらいの年齢層が多いです。



症状はそれほど強くない(我慢できるくらい)方が多いですが、ネット検索により心筋炎や心膜炎の合併症が生じうるという情報をキャッチして、心配になって受診される方が比較的多いです。


例えば厚生労働省も下記のようにアナウンスしていますので、受診の判断・行動は当然と言えば当然かと思います。

“心筋炎や心膜炎の典型的な症状としては、ワクチン接種後4日程度の間に、胸の痛みや息切れが出ることが想定されます。こうした症状が現れた場合は医療機関を受診することをお勧めします。”

新型コロナワクチンQ & A 厚生労働省

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0079.html


なぜワクチン後に胸痛が生じるのか?



今のところ、当クリニックにおいては、胸痛や動悸を訴えて来院される方のほぼ全員が心筋炎、心膜炎の可能性はほぼ否定的でした。
原因ははっきりしませんが、危険性は低く、経過観察とするケースが大半です。
症状も強くなく、痛み止めも不要な方が多いです。


それでは、心筋炎や心膜炎になっていなくても、なぜ胸部症状が出てしまうのでしょうか?

いくつかの可能性があるかと思います。


(1)ワクチンに対する不安

① ワクチン接種の副反応に対する不安が大きく、過度に敏感になってしまう。些細な症状や既存の症状であっても副反応と結びつけてしまう。

② ワクチン接種に対する不安、ストレスにより自律神経バランスを乱し、動悸や胸痛を誘発してしまう。



(2) 単なる免疫反応の一症状

上記の接種部位の痛みや疲労、頭痛のように、ワクチンによる免疫反応の影響として想定内の症状。コミナティの添付文書には記載されないくらい稀な頻度だが、たまたま循環器クリニックに集まってきている。



(3)未知のメカニズム

例えば、子宮頸がんのHPVワクチン接種者と自律神経の受容体抗体との関連や自己免疫性自律神経失調症との関連があるとする報告があります。
また特定のHLAサブタイプの被験者にインフルエンザワクチン接種するとナルコレプシー(睡眠に関する病気)が見られるとの報告があります。
他の特定の遺伝子においては、MMR (麻しん・風しん・ムンプス混合)ワクチン接種後の熱性発作のリスク増加と関連しています。


このように、ワクチンには想定外の副反応の機序があったり、また接種者の特性により特異的な副反応が出現しやすくなったりする可能性があります。

(※ これらのワクチンの有用性は、わずかな副反応のリスクより遥かに高いと考えられますから、布施としてはワクチン接種を強く推奨します。念の為。)

新型コロナウイルスのワクチンにも、そのようなメカニズムが潜在している可能性がないとは言えません。


まとめ;ワクチン接種推奨です


・新型コロナウイルスのワクチン接種後に胸痛や動悸を自覚される方が少なくありません。

・「新型コロナワクチン接種後症候群」と名づけたいくらいです。

・確率は低いとはいえ、心膜炎、心筋炎のチェックは必要です。
(症状が現れた場合は医療機関を受診することをお勧めします(厚生労働省))

・ワクチン接種後の胸部症状の原因はわからないことが多いです。しかし、リスクが低く、多くの場合は経過観察でよく、自然改善が期待できます。

・リスクは低く、ワクチン摂取するメリットの方が遥かに大きいと思います。総合的に考えると、新型コロナワクチン接種をお勧めします。



【参考文献】

・Martinez-Lavin M, Tejada-Ruiz M. Gulf war illness, post-HPV vaccination syndrome, and Macrophagic Myofasciitis. Similar disabling conditions possibly linked to vaccine-induced autoimmune dysautonomia. Autoimmun Rev. 2020 Sep;19(9):102603. doi: 10.1016/j.autrev.2020.102603. Epub 2020 Jul 10. PMID: 32659478.

・Blitshteyn S, Brinth L, Hendrickson JE, Martinez-Lavin M. Autonomic dysfunction and HPV immunization: an overview. Immunol Res. 2018 Dec;66(6):744-754. doi: 10.1007/s12026-018-9036-1. Erratum in: Immunol Res. 2018 Dec 21;: PMID: 30478703

接種後胸痛「新型コロナワクチン接種後症候群」→それでもワクチン接種推奨” への17件のフィードバック

  1. 頻拍性不整脈の記事を拝見しました。
    私は一年ほど前から心室性期外収縮が毎日起きていますが回数は30回/日程です。
    心室性期外収縮は回数が多くなければ心配いらないということだったので、安心しておりましたが、本日検脈していたところ、いつもの期外収縮とは違い、期外収縮が2、3回続いた後に脈拍が異常に早くなりました。10秒ほどで収まりましたが250回/分程の早さでした。突然始まって突然終わりました。

    頻拍性不整脈は危険なものが多いのでとても不安です。
    また今日初めて経験した症状なので今後頻繁に起きるかはわかりませんが、ホルター心電図をやっても捕まえられない可能性が高いと思い不安になります。

    危険度が高い場合はもっと頻拍が頻繁に起きたり、持続時間が長かったりするのでしょうか?

    1. ありがとうございます。基本的にはご指摘の通りです。繰り返すようであればホルター心電図を行ってもらってください。ご自身でもアップルウォッチや携帯心電計で頻拍時の心電図を記録する努力をすると良いと思います。

      1. お返事ありがとうございます。

        病院へ行ったところ症状的に特発性心室頻拍の可能性が高いと言われ、命に関わる不整脈になる可能性もあるけど、心電図で捕まえられてないので、とりあえずビソプロロールを飲んで様子を見てくださいと言われました。
        自分でもネットで調べましたが、特発性心室頻拍より器質性心室頻拍の方が重症度が高く、心室細動へ移行して血圧低下から意識消失に至る危険性が高いが、同様の危険性は特発性心室頻拍でもあると書かれていました。
        器質性心室頻拍よりは危険性は低いようですが、特発性心室頻拍はどのくらい危険なものなのでしょうか?
        いつ命に関わる不整脈がおきるかわからない状態で過ごすしか手段はないのでしょうか?
        また心臓電気生理学的検査をすることはできるのか聞いてみましたが、偽陽性が出て一生ICDを埋め込むことになるかもしれないのでおすすめできないと言われました。

        毎日不安で不安で、、、。

        ※心電図計測のためにAppleWatchも購入しましたが、5秒〜10秒ほど短時間の頻拍発作を捕まえるのは非常に難しいと思いました。

        1. ご不安、お察し致します。「心室頻拍」はあくまでも可能性の話です。心室頻拍であったと仮定しても、心機能が正常で特発性心室頻拍であるならリスクは極めて低く、それで命を落とす人は稀です。まだ発作は1度だけのようですし、心配しすぎなくても良いと思います。
          発作時の心電図を記録する方法として植込み型ループレコーダという方法があります。ご心配であれば主治医に提案してみてはいかがでしょう。

          1. ご返信ありがとうございます。
            植込み型ループレコーダについて主治医に相談してみます。

            今回の頻拍発作をきっかけに思い出したのですが、小学生2年生のときに縄跳びをしている最中に突然失神したことがあり、もともと心室頻拍があったのではと不安になり、先日循環器を受診した際に医師に聞いてみたのですが、当時の心電図がないとわからないと言われて終わりでした。
            カテコラミン感受性多形性心室頻拍の可能性があるのか聞いてみたのですが、スルーされてしまいました。
            ※意識は30秒以内には戻ったと記憶しております。失神する直前も体調不良は全く感じておらず突然失神した感じでした。意識が戻ってからも体調不良は感じませんでした。
            失神した日に小さなクリニックに行きましたが何の検査もせずに、貧血じゃないですか?と言われて終わりでした。それから25年程経ちましたが、それ以来原因不明の失神はありません。

            何の知識もないのですが、症状的にカテコラミン感受性多形性心室頻拍が近いのかなと思った次第です。
            25年間この時のような失神を起こした経験はないのですが、安心して大丈夫なのでしょうか?
            今出来る検査等はありますでしょうか?

            お忙しいところ恐れ入りますが、何卒宜しくお願い致します。

          2. 25年間再発していませんので心配しなくて良いです。ちなみに植込み型ループレコーダは失神の検査としても有用です。

  2. こんにちは
    29日にファイザー1回目接種後、動悸、胸が締め付けられるような痛みが現れたので、救急にかかったところ、心筋炎ではないと診断されましたが、ドキドキは収まったものの、胸の締め付けられるような痛みがひどくなりました。
    これは副作用で経過観察で良いようなものなのですか?かかった医師には原因よく分からないと言われていてとても不安です。ご返信頂けるととても助かります。

    1. ありがとうございます。ご心配のことと存じます。一般的には経過観察で良いことがほとんどです。松田様の場合は、拝見しておりませんので判断できません、すいません。症状がひどいようであれば医療機関を再度受診いただくしかないと思います。

      1. コロナワクチン 胸痛 で検索してたどり着きました。
        40代女性です。
        昨年8月・9月にモデルナ、今年8月にノババックスを接種しました。
        1回目接種時はうわさ通り発熱・モデルナアーム・腕が上がらないと服反応はありました。
        2回目は熱がぐっと上がるときに悪寒と吐き気もありました。胸痛もあり、鎖骨の下の肋骨辺辺りの痛みで、接種部位の違和感と共に半年ほど続きました。
        3回目はノババックスで受けたので発熱や吐き気は無かったのですが、約1ヶ月経つ今現在でもやはり接種部位の痒みというかピリピリみたいな違和感と前回と同じく鎖骨下の肋骨辺りの痛みが残ってます。
        日常生活に支障はありません。

        副反応が強く出た人ははこんなに長期間続いてしまうのでしょうか。

        1. 自分の周りにはワクチンの副反応らしき症状が長期に持続するケースは見かけません。稀な事象かと思います。日常生活に支障がないのが救いですが、自然に治るのを待つしかないのだと思います。

  3. コロナワクチン4回目打った数日後から
    左胸が痛くて病院にいったけど
    心電図レントゲン共に異常ないとのこと。
    ですが痛みが続きます。
    なにかほかの病気なのでしょうか?

    1. こちらでは判断しかねます。前回受診した医療機関に再診するか、もし循環器内科を未受診でしたら受診してみてはいかがでしょうか。

  4. 記事を興味深く拝見しました。54歳、女性です。既往歴として喘息(5年前に完治)があります。
    私はワクチン接種後6日目頃から心拍数が上がり(安静時の心拍数が95回/分、それまでの私の数値は56回/分)、それが約1か月続きました。そのため、2回目の接種ができないでいます(詳細は以下をご覧ください)。こちらのクリニックを訪れた方にも、同じような症状の方はいらっしゃったでしょうか?また、その方たちの2回目の接種後の状況はいかがでしたでしょうか?2回目を打つとして、対応ワクチンは従来型ファイザーとノババックスの2択ですが、どちらの方が良いと思われますか?
    お忙しいと思いますが、ご意見をお願いいたします。

    一昨年の8月にモデルナ製ワクチンを職場の集団接種会場で受けました。1-5日目までは一般的な経過をたどり(接種部位の軽い痛み→倦怠感→腕やリンパの腫れ)、接種翌日から通常の生活を続けていました。が、接種後6日目から息苦しさ(胸の上に誰かにずっと乗られているような圧迫感)が現れました。痛みは無いものの、安静時の心拍数が95回/分(それまでの私の数値は56回/分)と高い状態が続きました。さらに11日目からは咳が出始めました。
    <その後の経過>
    心拍数:接種後26日目までに85回/分まで下がり、33日目で60回前後/分となりました。以後、自覚的には異常を感じていません。
    咳症状:接種後15日目に呼吸器内科を受診し、喘息と診断されて2週間ステロイドを吸入。しかし、咳は治まらず29日目からはアレルギーの薬に変更されました。数日の服用で咳症状は軽くなりました。
    <ワクチンの接種について>
    2回目接種日の時点で心拍数は正常値(ワクチン接種前の状態)に戻っていましたが、咳はまだ少し残っている状態で、会場の問診医からは接種不可と判断されました。その際、体調回復後も接種しない方が良いとのアドバイスを受けました。以来、昨年の4月までに複数のクリニックにワクチン2回目接種の相談をしましたが、いずれも接種は控えた方が良い(あるいは僕なら接種はしない)と言われ、接種を諦めたまま現在に至っています。
    社会生活を維持しつつ新型コロナに感染しない努力をひたすら続けてきましたが、コロナへの社会の向き合い方もどんどん変化してきており、ワクチンを接種していないことのリスクは以前よりも高まっているように私は感じています。できれば2回目の接種をしたいのですが、現在、私の居住地では、2回目の接種をしてくれる病院は数件しかなく、いずれも循環器の専門ではないため不安があります。

    1. 詳細な情報ありがとうございます。ご経験された症状がワクチンによるものか判断しかねます(正解は誰もわからない)が、その可能性を大変ご心配されていることが伝わってきます。ご自身の中で整理がつかないうちは、医療サイドとしては2回目の接種は勧めづらいのが現実です。コロナウイルスの病原性は低下し、かつての重症肺炎をきたすようなタイプではなくなって、ほとんどが軽症ですみますし、重症な基礎疾患がないのであれば、このまま2回目は接種せずに経過を見ていく方針が無難のような気がします。
      ワクチン接種後に1ヶ月もご提示いただいたような症状が続いた人は、経験がありません。

      1. 大変お忙しい中、丁寧なコメントをありがとうございます。同様の症状の方がいらっしゃればと思ったのですが。
        重ねて質問させていただきます。
        新型コロナウィルス(オミクロン株)に罹患した場合の
        ・重症化リスクの低下は、ワクチン未接種者にとっても同様と考えて良いのでしょうか?
        ・症状の進行速度は、ワクチン未接種者は早いのでしょうか?(急変の可能性は?)
        ・医療現場のひっ迫を予防するために軽症者は自宅療養することが推奨されていますが、未接種を理由にすぐに受診しても良いものでしょうか?

        1. ・ワクチン未接種者にとっても重症化リスクは低下しています。
          ・ワクチン未接種者の急変の可能性は、ワクチン接種者より相対的に高いですが、絶対的には低いです。「進行速度」に関しては、悪化する場合は概ね発症1wくらいのうちに生じる感じです。
          ・重症化リスク因子がない方であれば、未接種のみを理由にすぐ受診することは推奨されていませんが、「受診してはいけない」わけではないので、ご心配で診察希望なら医療機関を受診されて良いと思います

  5. 大変参考になりました。幸い、私の職場は感染リスクが高くはありません。引き続き感染しない努力と健康の維持に努めていきます。
    日々の診療だけでなく、このような情報発信と丁寧なコメントをいただける場を提供してくださり本当にありがとうございます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です