タンパク質摂取で死亡リスクが上がるのは本当か?

投稿日: カテゴリー: 医療一般食事

タンパク質は健康に悪い!?


タンパク質摂取量が増えるにつれて死亡リスクが上がるというデータがあります。

Eur J Epidemiol. 2020 May;35(5):411-429

 

デフォルメしていますが、そのデータのグラフの雰囲気はこんな感じで死亡リスクは右肩上がりです。

 

世の中タンパク質ブームで、タンパク質摂取をサポートするような食材や補助食品も多く販売されています。自分も、タンパク質を多めに摂りましょうと、診療でも、このブログでも申し上げています。

しかし、本当にタンパク質が死亡リスクを上げるような、健康に悪いものなのだとしたら問題です。

 

タンパク質摂取が本当に良いのか今一度見直してみたいと思います。

 

一口にタンパク質と言っても、大きく分けて2種類あります。

・動物性タンパク質

・植物性タンパク質

動物性タンパクは、肉、魚、卵、乳製品などが主になります。

植物性タンパクは、豆、小麦が主になります。

 

これらは各々、「健康」に良いのでしょうか?悪いのでしょうか?

また、動物性と植物性のどちらがより良いのでしょうか?

 

「健康」に良いタンパク質、悪いタンパク質


 

タンパク質摂取と健康に関して、多くの疫学データがありますが、ほぼ一貫して、

「動物性タンパク質を多くとると死亡リスクが上昇」

「植物性タンパク質を多くとると死亡リスクが低下」

と言う結論になっています。

動物性タンパク質を多く摂ることで、心臓血管疾患や大腸がんや乳がんなどのがんの罹患リスクが上がるなどして、死亡リスクが上昇すると考えられています。

 

例えば、ごく最近の2つのメタ解析論文(BMJ. 2020;370:m2412.)(Eur J Epidemiol. 2020 May;35(5):411-429)でも、同じような傾向の用量反応関係のグラフになっています。

かなりデフォルメしてかくとざっくりこんなグラフです。動物性タンパクは右肩上がりで死亡リスクが上がっていきます。植物性タンパクは右肩下がりで低下していきます。

元のグラフは論文のリンクで見れますので確認してみてください。

 

さらに、「動物性タンパク質を植物性タンパク質に置き換えると、全死亡リスクが低下する」とするデータも複数あります。また、動物性タンパクを植物性タンパクに変えると、心血管死亡、がん死亡、その他の死亡の各々のリスクが低下します(JAMA Intern Med. 2016;176(10):1453-1463)。

 

つまり、「タンパク質は健康に良い」とは言い切れません。

摂取タンパク質のうち、動物性タンパク質の割合が多くなりすぎると死亡リスクが上昇することが示唆され、「健康に良い」とはとても言えないのです。

一番初めに示したタンパク質摂取が増えるにつれ死亡リスクが上昇するというグラフは、動物性タンパクの影響を反映していると思われます。動物性タンパク質の占める割合が多いければ多いほどこのような傾向を示すということになります。

 

動物性タンパク質と植物性タンパク質のどちらが「健康」に良いか?と言う問いに対しての結論は、当然、

「植物性タンパク質の方が良い。」

と言う回答になります。

 

それでは、動物性タンパク質は全て悪者なのでしょうか?

 

どの動物性タンパク質が良いのか?良くないのか?


動物性タンパクが「健康」に悪いとすると、肉、魚、卵、乳製品などのうち何が特に悪いのでしょうか?

 

様々な研究のレビュー論文(N Engl J Med 2020;382:644-54.)によると、各動物性タンパクと死亡リスクの関連は以下の順になります。

植物<鶏肉<魚<乳製品<赤身肉<卵<加工肉

死亡リスクに関して植物性タンパクが最もリスクが低く、加工肉が最も高いと言う意味です。

ちなみに、赤身肉とは牛肉や豚肉のことです。霜降りの牛肉も「赤身肉」に分類されます。

加工肉には、ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーガーなどが含まれます。

 

鶏肉摂取は死亡リスク低下と相関していることが示されています。

(BMJ. 2017;357:j1957.)

魚摂取も死亡リスク低下と相関していることが示されています。

(Public Health Nutr. 2018 Jan 10:1-10.)

乳製品は1日2.8サービング(牛乳なら670mlほど)くらいまでなら、死亡リスクは上昇も低下もしないでフラットです。

(BMJ. 2019 Nov 27;367:l6204.)

赤身肉、加工肉摂取は死亡リスク上昇と相関していることが示されています。

(BMJ 2017;357:j1957)

卵摂取も死亡リスク上昇と相関していることが示されています。

(JAMA. 2019;321(11):1081-1095.)

 

ただし、65歳以上の人は動物性タンパクを多くとっていると死亡リスクが相対的に低めであると言うデータもあります(Cell Metab. 2014 March 4; 19(3): 407–417)。おそらく高齢ですと、赤肉や加工肉などを食してそれにより心血管系疾患やがんが促されても余命との関係から大きな影響が出ないものと推測されます。人生100年、長寿が促されてくると「65歳」と言う年齢はもっと上がってくる可能性はあります。

 

つまり、「タンパク質を多く摂りましょう」と言っても、赤身肉や加工肉、卵は死亡リスクをあげる可能性がありますので、食べ過ぎは避けた方が良いと言うことになります。食べてはいけないと言うことでは決してありません。食べすぎるとリスクが上がると言うことです。

高齢になれば赤身肉などもあまりこだわらず食べても良いと思います。

 

「健康に良い」動物性タンパク質

=鶏肉、魚

摂りすぎると「健康に悪い」動物性タンパク質

=赤身肉、卵、加工肉

両者の中間

=乳製品

 

 

極端な糖質制限で、炭水化物をほとんど取らずにステーキやハンバーグばかり食べていた人が早期死亡してしまう例を少なからず目にしてきました。上記のデータと矛盾しません。

どんどん肉を食べましょう、卵を毎日3個とか5個とか食べましょう、と言った情報をネットなどで目にすることがありますが、鵜呑みにして漫然と続けることは危険だと思います。

 

動物性タンパク質の良い点は?


動物性タンパク質、特に赤身肉、加工肉、卵が悪者のようになっていますが、良い点はないのでしょうか?

まず前提重要事項は「加工肉」を習慣的に摂取することは避けた方が無難ということです。ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーガーなどです。ほぼ全ての研究で健康に対して悪いデータが出ています。塩分が多めに含有されていたり、様々な添加物が含有されていることも影響しているのかもしれません。加工肉はたまに嗜好品として楽しむことは良いとしても、習慣的に摂取することは避けましょう。加工肉の習慣的摂取は避けましょう。大事なことは繰り返します。加工肉の習慣的摂取は避けましょう。

 

動物性タンパク質は、植物性タンパク質に比べて高い筋肉タンパク質合成(MPS;muscle protein synthesis)を促すと考えられています(Nutrients. 2020 Sep 23;12(10):E2915)。

筋肉を付けたい、筋力強化したいと言う人は植物性よりも動物性タンパク質を摂った方が効率的と考えられます。(筋トレに勤しむマッチョな方は一般的にソイプロテイン(大豆=植物性タンパク)よりもホエイプロテイン(乳清=動物性タンパク)を好むのはこの辺りにも理由があると思います。)

 

また赤身肉ですと、鉄や亜鉛などの微量元素が多く含まれていますし、ビタミンB12やB6も含まれています。その点でもメリットがあります。

 

若い人で、筋肉を付けたい人(細身の人でも、マッチョな人でも)は動物性タンパク質をもちろん摂って良いのですが、赤身肉や卵の摂りすぎのデメリット(死亡リスク上昇)も頭に入れて程々にしておいた方が良いと思います。肉なら鶏肉の方がたくさん食べても健康リスクが上がらないと考えられます。その他魚や乳製品、そして植物性タンパク質を合わせて摂ることをお勧めしたいです。

高齢者、特にフレイルやサルコペニアなど筋肉が減りがちな人は赤身肉や卵を多く摂っても良いと思います。

 

 

最後に


多くの疫学データは、アンケートを元にデータを取っています。したがって実際の摂取量との乖離があったりするでしょう。しかし、膨大なデータを元にしていたり、複数の研究で同様の結果が出ていることでそのような乖離があろうとも結果の妥当性は上がると思います。

また、細かな肉や食材の種類はわかりません。例えばグラスフェッドの牛肉だと悪くないのでは?というような思いを抱く人も少なくないと思いますが、上記の論文たちではその情報はわかりません。脂肪が多い肉を食べることで「動物性タンパク質」以外にも「飽和脂肪酸」が悪影響を及ぼしている可能性もあるかもしれません。

 

研究の限界はあります。あくまでも、大枠での考え方ということでご理解いただければと思います。

 

一概に「タンパク質は健康に良いのでたくさん摂りましょう」とは言えません。

そのタンパク源を意識しておくことが重要となります。各タンパク源によって身体への影響は異なります。疫学データからは、最も「健康に良い」タンパク質は植物性タンパク質と言えます。

動物性タンパク質は筋肉をつけるには効率的ですが赤身肉や卵は食べすぎると死亡リスクが上昇する可能性がありますので注意が必要です。

加工肉は多くの試験でほぼ一貫して死亡リスクと強く相関していますので習慣的摂取は避けましょう。

 

<ポイント>

動物性タンパク質を多くとると死亡リスクが上昇。

・植物性タンパク質を多くとると死亡リスクが低下。

・死亡リスクとの関連は、(低)植物<鶏肉<魚<乳製品<赤身肉<卵<加工肉(高)

・高齢者(>65歳)は動物性タンパクを多くとっても死亡リスクは上がらない。

・筋肉強化には植物性よりも動物性タンパク質を摂った方が効率的。

 

【参考文献】

・Naghshi S, Sadeghi O, Willett WC, Esmaillzadeh A. Dietary intake of total, animal, and plant proteins and risk of all cause, cardiovascular, and cancer mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. BMJ. 2020;370:m2412. Published 2020 Jul 22. doi:10.1136/bmj.m2412

・Chen Z, Glisic M, Song M, Aliahmad HA, Zhang X, Moumdjian AC, Gonzalez-Jaramillo V, van der Schaft N, Bramer WM, Ikram MA, Voortman T. Dietary protein intake and all-cause and cause-specific mortality: results from the Rotterdam Study and a meta-analysis of prospective cohort studies. Eur J Epidemiol. 2020 May;35(5):411-429. doi: 10.1007/s10654-020-00607-6. Epub 2020 Feb 19. PMID: 32076944; PMCID: PMC7250948.

・Song M, Fung TT, Hu FB, Willett WC, Longo VD, Chan AT, Giovannucci EL. Association of Animal and Plant Protein Intake With All-Cause and Cause-Specific Mortality. JAMA Intern Med. 2016 Oct 1;176(10):1453-1463. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.4182.

・Willett WC, Ludwig DS. Milk and Health. N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):644-654. doi: 10.1056/NEJMra1903547. PMID: 32053300.

・Coelho-Junior HJ, Marzetti E, Picca A, Cesari M, Uchida MC, Calvani R. Protein Intake and Frailty: A Matter of Quantity, Quality, and Timing. Nutrients. 2020 Sep 23;12(10):E2915. doi: 10.3390/nu12102915. PMID: 32977714.

 

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