相変わらず新型コロナウイルスの感染拡大は収まらない日々です。
以前、新型コロナウイルスが心臓に悪影響を及ぼすという記事を書きました。
さて、この度イタリアから興味深い論文が発表されていました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の心筋損傷の主原因は微小血栓
Microthrombi As A Major Cause of Cardiac Injury in COVID-19: A Pathologic Study
https://www.ahajournals.org/doi/abs/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.051828
【背景】
COVID-19の入院患者には心筋障害が多く見られ、予後の悪化を示唆しています。しかし、その心筋損傷のメカニズムはよくわかっていません。
【方法】
イタリアのベルガモでCOVID-19で死亡した入院患者40例(平均年齢74才)を剖検し、心臓損傷の病理学的機序を調査、検討しました。
【結果】
40例のうち14例(35%)では、心筋細胞の壊死が認められました(主に左心室)。
壊死が認められた患者は、壊死が認められなかった患者と比較して、
・女性が多い
・慢性腎臓病を有している
・入院までの症状の発現期間が短い
という傾向が見られました。
冠動脈疾患(75%以上の冠動脈の狭窄病変を有する)を有する率は、壊死の有無で有意差はありませんでした。
壊死を認めた14例のうち11例(78.6%)に心臓の血栓が認められ、そのうち2例(14.2%)には心臓表面(心外膜)の冠動脈に血栓が認められ、9例(64.3%)には心筋の毛細血管や小動脈に微小血栓が認められました。
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40例:COVID-19 で死亡
◎26例(65%)心筋細胞壊死なし
◎14例(35%)心筋細胞壊死あり
- 11例 血栓あり
- - 9例 微小血栓
- - 2例 冠動脈血栓
- 3例 血栓なし
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ウイルスの存在を調べた8例では、微小血栓を有する微小血管内皮細胞にはウイルスは認めませんでした。COVID-19感染者における微小血栓形成の主要なメカニズムは、内皮細胞の直接感染ではない可能性が高いことを示唆しています。
心筋細胞の壊死を認めた症例は認めなかった症例に比べて、虚血性心電図の変化を呈する確率は高かったですが、変化を認めたのは14例中6例(42.9%)のみであり、その感度は低いものでした。見逃してしまう可能性もあります。
【結論】
COVID-19感染症で死亡した患者の心臓損傷の原因を系統的に検討した最初の研究です。COVID-19感染で死亡した患者の35%(14/40)に心筋壊死が認められ、その大多数(78.6%(11/14))に血栓が認められました。心筋細胞壊死の主な原因は微小血栓であり、心筋細胞壊死を認めた患者の64.3%(9/14)に認められました。
抗血小板療法、抗凝固療法などの臨床試験での検討が必要であることを示唆しています。
新型コロナウイルス感染後体調が思わしくない方
上記論文で対象となった患者はCOVID-19の重症入院患者です。COVID-19に罹患しても軽症な人が微小血栓が形成されたり、心筋損傷を来たすということではありません。
しかし、重症の人のみならず、軽症であってもCOVID-19罹患後後遺症に悩まされる人が少なくありません。その中には、動悸や胸痛、息苦しさなど胸部症状を訴える人も含まれます。微小血栓が心臓や肺などに形成され症状を呈しているという可能性も全く考えられないというわけではないと思ってしまいます。
胸部症状が残存し、お困りの方は一度血栓形成の状態や心臓の状態をチェックしても良いかもしれません。