心理的因子が身体的な影響を及ぼすメカニズムは?

投稿日: カテゴリー: ポジティブ心理学循環器

ストレスやネガティブ感情が身体に悪影響を及ぼし、そしてポジティブな心理的因子が身体に好影響を及ぼすと言うことを最近書きました。

どのようなメカニズムで、心理的因子が身体的に影響を及ぼすのでしょうか?
今回もCirculation誌の総説( Circulation. 2021 Jan 25:CIR0000000000000947)を元に書きます。

急性ストレスの影響

ストレスやネガティブ感情と言っても、急なものと、慢性的なものがあります。

・急激なメンタルストレスでは、直ちに変化が起こり、カテコールアミン(自律神経に大きく関与するホルモン)の劇的な上昇を引き起こす。
 (J Electrocardiol. 2011;44:678–683. )
 (J Am Coll Cardiol. 2009;53:774–778. )
 (Circulation. 1987;76(pt 2):I41–I47. )
 (Cell Mol Neurobiol. 2012;32:847–857.)


・ストレスの高い人では圧受容体反射感受性(BRS)などへの影響により、心血管系の再活性化cardiovagal reactivationの障害をきたす。
 (自律神経の乱れからの回復が鈍い)
 (J Hum Hypertens. 2014;28:399–401)


・急性の精神的苦痛を伴う精神的ストレス(例:抑うつ)は、冠動脈疾患患者の心筋虚血誘発と関連している。
 (Am J Cardiol. 2005;96:1064–1068. )
 (Psychosom Med. 2014;76:168–170. )
 (J Am Heart Assoc. 2014;3:e000898.)

副交感神経/交感神経の心臓の自律神経支配を乱し、心筋の酸素需要を増加させ、心筋虚血を誘発し、不整脈のリスクを高めたり、あるいは冠動脈プラーク破裂を誘発する可能性がある

また、冠動脈とは無関係に心臓の動きが急激に悪くなる「タコツボ型心筋障害」(心筋梗塞にとてもよく似ている)を生じることもある。



要するに、急激なストレスやネガティブな心理的要因により、自律神経が乱れ、心臓に負荷がかかり、狭心症や心筋梗塞(胸が痛くなる)を生じたり、不整脈を呈する可能性があるのです。


慢性ストレスの影響


日々の人間関係や仕事ストレス、慢性的にストレスのある方、それに付随してネガティブ感情を抱いている方はとても多いと思います。このようなストレスは、身体に悪影響を与え得るわけですが、どのようなプロセスなのでしょうか。

・心理的苦痛(例:怒り、不安、抑うつ、PTSD)は視床下部-下垂体-副腎軸の活性化につながり、その結果、自律神経系の調節障害と下流への影響により心血管疾患発症のリスクを高める可能性がある。
 (Am J Hypertens. 2015;28:1295–1302. )
 (Ann NY Acad Sci. 2004;1018:1–15.)


慢性的なストレスは、凝固能亢進、脂質代謝異常と関連。
 J Affect Disord. 2008;107:259–263
 Psychosom Med. 2003;65:729–737
 Psychosom Med. 2006;68:598–604


慢性的なストレスは、耐糖能異常と関連。
  Ann Behav Med. 2007;34:240–252.
  (J Diabetes. 2018;10:512–523.)


慢性的なストレスは、炎症性プロセスの増加と免疫応答の障害と関連
 (Am J Hypertens. 2015;28:1295–1302)
 ( Psychol Bull. 2014;140:774–815.)
 (Biol Psychiatry. 2020;87:885–897)


・怒りや敵意は、血小板凝集、炎症の増加と関連。
 (Prog Cardiovasc Dis. 2013;55:538–547.)


・PTSDを発症した女性は、そうでない女性と比較して、VCAM-1(血管細胞接着分子;炎症に関与する因子)の増加が大きい。
 (Brain Behav Immun. 2018;69:203–209.)


・慢性的な心理的苦痛は、
 - 交感神経緊張の亢進
 - 迷走神経緊張の低下
 - 心拍変動の低下
 - 動脈硬化と内皮機能障害

をもたらすことがある。
 (Psychosom Med. 2007;69:935–943.)
 ( J Psychiatr Res. 2006;40:550–567.)
 ( Psychosom Med. 2005;67:S2–S5. )
 (Eur Heart J. 2005;26:1612–1617.)


・慢性的な不安は冠攣縮のリスク増加と関連。
 (Psychosom Med. 2019;81:237–245.)


多くの研究では、心理的な健康状態と心血管リスクを増加させる因子との間の関連は双方向性である可能性が高いことが指摘されている。また、最近の縦断的研究では、うつ病やPTSDなどの因子が炎症のレベルの上昇に先行している事が示されている。
 (Biol Psychiatry. 2020;87:885–897. )
 (Brain Behav Immun. 2018;69:203–209. )
 (Brain Behav Immun. 2009;23:936–944. )


つまり、病気になるからストレスを感じたり、心理的に不健康になったりすることはあると思いますが、心理的不健康やストレスが病気を助長すると言う道筋も間違いなくあると解釈できます。



ポジティブな心理的因子の影響


全体的に言えば、ポジティブな心理的因子は、

・抗炎症作用、免疫系への好影響
・ストレスに対する反応性の緩和

を介して、より健全な心血管系機能を促進し得るようです。
 (Psychol Bull. 2012;138:655–691. )
 (Appl Psychophysiol Biofeedback. 2018;43:259–273.)


ここで言うポジティブな心理的要因とは、幸せ感、ポジティブ感情、活力、楽観性、目的意識、感謝、心理的ウェルビーイング、マインドフルネスなどを指します。




・ポジティブな心理的因子は、自律神経パラメータの良好な基礎レベルと関連している。 例えば 心拍数や心拍変動、 迷走神経緊張、健全なストレス応答。       
 (Psychol Sci. 2013;24:1123–1132. )
 (Emotion. 2013;13:599–604. )
 (Proc Natl Acad Sci USA. 2005;102:6508–6512. )
 (Psychophysiology. 2009;46:862–869. )
 (Ann Behav Med. 2019;53:466–475. )
 (Am J Cardiol. 2004;93:1292–1294.)


・eudaimonicな幸福感の増加は、CRPとフィブリノーゲン(炎症に関連するタンパク質)の低下と関連。
 (Brain Behav Immun. 2020;83:146–152.)

※「eudaimonic(より深い認知や人生の意味と関わる幸福)」「hedonic(自己の欲に基づく快楽的幸福)」



・ポジティブな心理的要因は、健やかな免疫反応や炎症反応の低下と関連。
 ( J Am Coll Cardiol. 2018;72:1382–1396. )
 (Soc Sci Med. 2018;197:235–243. )
 (Psychosom Med. 2011;73:664–671)
 ( Ann Behav Med. 2019;53:309–320.)





ネガティブな心理的因子と行動

心理的因子は我々の行動も変えます。ネガティブな心理的因子により不健康な行動を助長し、身体的健康を損ねていく可能性もあります。


・うつ病、不安、ストレスなどのネガティブな心理的因子は、 喫煙、身体活動の低下、食事の質の低下、肥満と関連。
 (Health Psychol. 2018;37:407–416. )
 (Am J Hypertens. 2015;28:1295–1302. )

これらの生活様式は言うまでもありませんが、すべて心血管系疾患発症リスクの増加と因果関係があります。


・ネガティブな心理的因子とこれらの心臓リスク因子の関係は双方向性だが、縦断的な研究で、ネガティブな心理的因子は不健康な行動や体重増加に先行していることが示されている。
 (Psychol Med 2019:1–10. )
 (JAMA Psychiatry. 2014;71:44–51. )
 (Am J Prev Med. 2017;52:753–760)


・20年間で50000人の女性を追跡調査した研究では、PTSDの症状が高いほど、将来の体重増加や、経時的な健康的な食事が少ないことと関連している。身体活動の低下も見られた。    
 (Psychol Med 2019:1–10. )
 (JAMA Psychiatry. 2014;71:44–51.)
 (Am J Prev Med. 2017;52:753–760)


・数多くの研究で、うつ病と心血管治療薬の服薬アドヒアランス不良が関連。 
 (Patient Prefer Adherence. 2017;11:547–559.)


・抑うつ症状の重症度と服薬アドヒアランス不良の程度との間に「用量反応」の関係がある(非抑うつ患者では15%、軽度抑うつ患者では29%、中等度から重度抑うつ患者では37%)。
また、抑うつ症状の改善が2ヵ月後の服薬アドヒアランスの改善と関連。
 ( J Am Coll Cardiol. 2006;48:2218–2222. )



ポジティブな心理的因子と行動

ネガティブとは逆に、ポジティブな心理的因子は、健康的な行動を通じて心血管疾患リスクの低下につながる可能性があります。心理的健康状態が良好な人は、心血管疾患を含む疾患に対して予防的行動をとる可能性が高いのです。


・250万人を対象とした横断的研究では、ポジティブな感情や生活満足度が高い人は、健康的なライフスタイル行動(例えば、運動をする、タバコを吸わない)をとる可能性が高い。
 (Appl Psychol Health Well Being. 2020;12:166–187.)


・上記と同様の結果を示す研究は複数あり。
 (J Am Coll Cardiol. 2018;72:1382–1396. )
 ( J Health Psychol. 2016;21:1026– 1036. )
 (Nutr J. 2020;19:6.)


・縦断的研究では、ポジティブな心理状態の存在こそが、将来のより良いライフスタイルの実践に寄与することが示唆されている。
 (J Acad Nutr Diet. 2014;114:1036–1045. )
 (Health Psychol. 2018;37:959–967. )
 (J Pers. 2002;70:421–442. )
 (J Psychosom Res. 2007;63:483–490.)

つまり、健康的スタイルだからポジティブになると言うよりむしろ、ポジティブだから健康的な生活スタイルになると言うことです。



・心理的にネガティブな状態は服薬アドヒアランス不良と関連し、心理的にポジティブな状態は服薬アドヒアランス良好と関連している。
 ( J Health Psychol. 2016;21:1026– 1036. )
 (Am Psychol. 2016;71:539–551. )
 (Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2013;6:619–625. )
 (Am Psychol. 2018;73:968–980.)
 ( Health Psychol. 2019;38:960–974.)


・ポジティブな心理的因子が服薬や治療のアドヒアランスの向上につながるかどうかを検討した研究は少ないが、現在のデータの大部分は向上するという結果。  
 ( Prim Health Care Res Dev. 2015;16:398–406.)
 ( J Hypertens. 2008;26:2236–2243.)


・心理的健康状態が良好な人は、社会的支援を受けやすい傾向があり
 ( J Pers Soc Psychol. 2002;82:102–111. ) 、日常的なストレス要因を脅威として認識しにくい傾向があり(J Posit Psychol. 2016;11:258–269. )( J Pers. 2006;74:1721–1747. )、 ストレス要因をコントロールするために問題解決や対策を講じやすい傾向があり( Clin Psychol Rev.2010;30:879–889. ) 、感情および行動をよりよくコントロールできる傾向がある。

→つまり、レジリエンスが高いと言うことですね。





まとめ

ネガティブな心理的因子は、主に自律神経系や免疫系に悪影響を及ぼし、心臓や血管に負担を与え不整脈を惹起したり、心筋虚血やプラーク破綻を助長し心血管系のトラブルを引き起こします。また、長期的にも血管などに炎症や内皮障害が生じ、また糖代謝、脂質代謝など動脈硬化と関連が深い代謝系にも乱れが生じます。合わせて、不健康な行動(喫煙、不活動、不眠、過食、服薬/治療アドヒアランス低下など)も助長され、上記の病態をさらに悪化させます。
こうした複数の因子が絡み合い、心血管疾患発症リスクや死亡リスクが上昇してしまうのです。

ポジティブな心理的因子は上記のような不健康要素を軽減、解消するのみならず、レジリエンス(たくましさ、折れない心)が高まるなどにより、さらに上乗せの健康効果が期待できるかもしれません。





【参考文献】

Levine GN, Cohen BE, Commodore-Mensah Y, Fleury J, Huffman JC, Khalid U, Labarthe DR, Lavretsky H, Michos ED, Spatz ES, Kubzansky LD; American Heart Association Council on Clinical Cardiology; Council on Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology; Council on Cardiovascular and Stroke Nursing; and Council on Lifestyle and Cardiometabolic Health. Psychological Health, Well-Being, and the Mind-Heart-Body Connection: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2021 Jan 25:CIR0000000000000947. doi: 10.1161/CIR.0000000000000947. Epub ahead of print. PMID: 33486973.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です