高所得者は幸せらしいが、我々庶民はどうすれば良いのか?

投稿日: カテゴリー: ポジティブ心理学自律神経

2つのウェルビーイング


幸せ=well-being を次の2つに分けることができます。

・experienced well-being :日常の瞬間瞬間の感情
・evaluative well-being: 人生全体の評価・満足度



つまり、
experienced well-beingとは、日々、嬉しいとか、楽しいとかポジティブな感情が多ければ幸せという意味です。

evaluative well-beingとは、人生を振り返ってみて「良い人生だった、幸せだった」と感じる感覚、人生の総括的な評価、人生の満足度です。


所得とウェルビーイングに関する既存論文


お金と幸せの関係を論じた有名な論文の一つは2010年のカーネマンによるものです(PNAS 2010;107 (38),16489-16493)。米国在住の1,000人を対象にしたこの研究によると、

evaluative well-beingは、所得が増えるとともに上昇しました。

experienced well-beingは、所得が7万5,000ドルまで増えるとともに上昇しましたが、7万5,000ドルを超えるとそれ以上は上昇せずプラトーになりました。



「お金が増えても幸せにはならない」

「年収800万円くらいが一番幸せ」

などというようなことを耳にしたことがある人も少なくないと思います。自分も含めて庶民としては、ちょっとほっとする言葉です笑。

上記論文のexperienced well-beingのプラトー現象が根拠の1つになっていると思われます。他にも同様の結論の研究も複数あります。



しかし、この論文を含めた「プラトー現象」を示した研究の問題点の1つは、「日常の瞬間瞬間の感情」であるはずのevaluative well-beingをリアルタイムに収集していない点です。翌日や後日に過去の感情を思い出してもらって記録するなどすれば不正確になる可能性があります。他にもいくつか方法論的に問題点が指摘されています。



所得とウェルビーイングに関する最新論文



研究の方法論を是正した上で、上記の「プラトー現象」に疑問を投げかける論文が最近発表されました。


Experienced well-being rises with income, even above $75,000 per year.
Killingsworth MA.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2021;118(4):e2016976118.



米国の有職者33,391人を対象に、所得とevaluative well-being、experienced well-beingの関係を調べました。

既存の類似論文と異なりevaluative well-being「日常の瞬間瞬間の感情」をスマートフォンを活用してリアルタイムに収集しています。テクノロジーの進歩とともに研究方法も進歩するのですね。
その測定尺度も改善しており、上記カーネマンの研究よりも精度が高いと思われます。



結果は、下記グラフのように(縦軸:ウェルビーイング、横軸:年収(ドル))、

evaluative well-being(=Life satisfaction)は、所得が増えるとともに上昇しました。

experienced well-beingも、所得が増えるとともに上昇しました。年収7万5,000ドル以上増えても上昇し続け、プラトーになる年収は同定されませんでした。

(Proc Natl Acad Sci U S A. 2021;118(4):e2016976118. )


そして、所得が多いほど、すべてのポジティブな感情が有意に高く、すべてのネガティブな感情が有意に低いことが示されました。
(下図 縦軸:ウェルビーイング、横軸:年収(ドル))

ちなみに測定された感情は、

ポジティブ感情:自信、良い、刺激的、興味、誇り
 (confident, good, inspired, interested, proud)

ネガティブ感情:恐れ、怒り、悪い、退屈、悲しみ、ストレス、動揺
 (afraid, angry, bad, bored, sad, stressed, upset)


(Proc Natl Acad Sci U S A. 2021;118(4):e2016976118. )



結論:所得が多くほどウェルビーイングは高くなる。。。


ということで、最新論文の結果は、所得の多さと幸福度が強く関連していることが示されました。evaluative well-being(=Life satisfaction)もexperienced well-beingも所得が高くなるほど高くなるのです。既存の研究とは異なり、年収7万5,000ドル付近にプラトーがあるという証拠はありませんでした。

所得が高いと、瞬間瞬間の幸福感も高いし、人生満足度も高い。
庶民としては、嫉妬するような結果でした。

国際的に徐々に競争力が低下している日本は、「庶民」がほとんどです。
所得が必ずしも高くない我々庶民が、限られた環境で少しでも幸せになるお金の使い方を考えてみましょう。


自分の感情コントロールに焦点を当てる



上のグラフから推測すると、人は苦しみなどのネガティブ感情を減らしたり、楽しみなどのポジティブ感情を増やしたりするためにお金を使うようです。当たり前ですが、所得に応じてこれらの目的のために活用するお金が異なることが、所得間のウェルビーイングの相違の原因の1つです。

自分にとって、何がポジティブ感情を増やし、何がネガティブ感情を減らすのか。よく見極めて、それに対してお金を投資してゆくことで幸福度がアップすることが期待できます。この見極めにより、必ずしも所得が多くなくても、ある程度は効率的にお金を配分することができると思います。

自分のポジティブ感情を促すことを見極める際に、ヘドニアとユーダイモニアを合わせて考えるとより良いと思います。特にお酒やタバコなど、安易に、容易に快楽を得られるようなものにお金を投資することは避けたいものです。

(下記記事を参考にしてください)




お金をどの程度重要と考えるか


この研究では、お金の重要度が平均値より1SD(標準偏差)高い人と1SD低い人を比較すると、所得とexperienced well-beingの関連性は4倍以上になると推定されました。

つまり、「お金は重要である」と考えている人は、所得が上がるとより幸せになるということです。


所得が高くない人は「お金は重要でない」と思った方が幸福度が高く、所得が高い人は「お金は重要だ」と思った方が幸福度が高いのです。

また、お金と「成功」を同一視する人の方が、所得と幸福度の関連性が強いこともわかりました。


自然と無意識にお金を重要視しない人も少なくありません。所得が多くない人でそのように自然と考えられる人は、幸福度が高くなりとてもお得です。

所得が高くなくて、「お金は重要だ」と考えている人は少しその考えを疑ってみたり、意識的に変えてみると幸福度が上がるかもしれません。お金以外の大切な軸はたくさんあります。



とはいえ、やっぱりお金は必要


とはいえ、お金は最低限必要です。

「自分の人生をどの程度コントロールできているか」という質問で測定された「コントロール感」が、「所得とexperienced well-being」の関連に強く影響しています。

「コントロール感」をある程度保持するためにも、最低限のお金は必要だと思います。


貪欲に「お金を稼ぐ」ではなく、無理なくコツコツと増やしていければ良いですね。そのテーマを踏襲しつつ、ウェルビーイングの要素を多分に含んだ良い本があります。自分はこの本を「ウェルビーイング読本」と位置付けています。大それた投資の本とかでは全くなく、今日から実践できるとても身近な内容です。


「子どもを2人育てながら1億円貯めた夫婦の40代FIREまでの道のり: GAFA部長が教える、40歳まで役職なし/手取り25万円だった僕が夫婦で取り組んだ資産形成の考え方」
Kindle版  寺澤伸洋 著

https://amzn.to/3EdLXOS
(2021年10月現在、残念ながらkindleでしか発売されていません。Kindle Unlimitedなら無料で読めます。)





FIRE(経済的独立をして早期退職する)と書かれていますが、早期退職にかかわらず、既婚の人も未婚の人もどなたでも、日々のお金管理や考え方に関してとても役立つ本です。


幸せになるお金の使い方8選


「お金と幸せ」に関する情報を収集していた時にたまたま見かけた論文を、参考までにごく簡単にご紹介しておきます。2011年と少し古いですがとても興味深いです。

幸せになるお金の使い方をレビューした論文(Journal of Consumer Psychology. 2011;21(2):115-125.)で、そのポイントだけ記しておきます。機会があれば、もう少し詳しい記事にしようかと思います。


If money doesn’t make you happy, then you probably aren’t spending it right. 
(お金で幸せになれない人は、お金の使い方が間違っているのかもしれません。)
Dunn EW, Gilbert DT, Wilson TD.
Journal of Consumer Psychology. 2011;21(2):115-125.


(1)物でなく経験を多く買う
(2)自分のためではなく他人のためにお金を使う
(3)大きな楽しみを少し買うのではなく、小さな楽しみを多く買う
(4)保証や保険の購入を減らす
(5)消費を遅らせる(今支払って、後で消費する)
(6)購入商品が日常生活にどのような影響を与えるか細部まで考える、
(7)比較ショッピングに注意し(価格比較サイトなど)、本質を忘れない
(8)先行購入者の幸せに注目する(口コミ)




まとめ



お金を使わない日はないくらい、お金と我々の生活は密着しています。
その使い道、使い方は重要です。使い道、使い方により、ストレス増多にもなり、ストレス緩和にもなります。限られた資源ですので、所得が多い人も少ない人も有効活用することが重要です。

ウェルビーイングを高めることは心身の調子を向上させますし、自律神経バランスが整うことも期待できます。

お金とご自身のウェルビーイングの関係を今一度考え直す機会になれば幸いです。


・所得の多さと幸福度は強く関連しており、既存の論文で指摘されていたプラトー(例えば年収7万5,000ドル)は存在しなかった。

・所得の多さとともに、2つのウェルビーイング(evaluative well-being、experienced well-being)は乖離なく、ともに上昇した。

・所得が多いとポジティブ感情が多く、ネガティブ感情が少ない。

→ 自分の感情を見極めてそれをコントロールすべく、効率よくお金を投資する。

・所得が高くない人は「お金は重要でない」と思った方が幸福度が高く、所得が高い人は「お金は重要だ」と思った方が幸福度が高い。お金と「成功」を同一視する人の方が、所得と幸福度の関連性が強い。

→ 自分にとっての「お金の重要性」をマネージしよう。

・お金管理を含めたウェルビーイング読本 https://amzn.to/3EdLXOS

・「幸せになるお金の使い方8選」も参考に。





【主な参考文献】

・Killingsworth MA. Experienced well-being rises with income, even above $75,000 per year. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Jan 26;118(4):e2016976118. doi: 10.1073/pnas.2016976118. PMID: 33468644; PMCID: PMC7848527.
・High income improves evaluation of life but not emotional well-being Daniel Kahneman, Angus Deaton. PNAS Sep 21, 2010 107 (38) 16489-16493; https://doi.org/10.1073/pnas.1011492107
・Dunn EW, Gilbert DT, Wilson TD. If money doesn’t make you happy, then you probably aren’t spending it right. Journal of Consumer Psychology. 2011;21(2):115-125.

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