新型コロナウイルス感染により外食頻度が減った方は多いと思いますが、デリバリーやテイクアウトの頻度は増えたという人も多いと思います。そして2021年10月現在感染が鎮静化してきていますので、今後はまた外食頻度が徐々に増えていくことが予測されます。
一般的に、外食(デリバリーやテイクアウトも含む)は家庭料理よりも野菜や果物が少なく、カロリーや脂質や糖質が多めになる傾向があります。その結果、肥満傾向、体脂肪率増加を助長するなど身体にあまり良い影響を与えないことが示唆されています(Int J Behav Nutr Phys Act. 2017;14(1):109. )。
身体的な健康という観点からは自炊、家庭料理が推奨されるのですが、心理面はどうなのでしょうか?
ここでは、「家庭料理を食べる」というより、「料理をする」ことが我々の心理にどのような影響を与えるのか?を中心に書きたいと思います。
料理はPERMAを促進する
PERMAとは、ウェルビーイング(幸せ)の構成要素であり、これらの要素を少しでも多く有していることで、人は幸せになれる、というものです。
ユーダイモニア的な幸せを促します。
料理はポジティブ感情を促す
料理がポジティブ感情を促すとする研究は複数あります。
例えば、80カ国以上の親を対象とした5週間のオンライン料理教育コースへの参加は、健康的な食事との関連に加え、準備中の楽しさ(enjoyable)の増加とも関連していました。(Int J Behav Nutr Phys Act. 2015;12:143.)
また、料理は心理的苦痛(ストレス、うつ、不安)を緩和する可能性があります。(Health Educ Behav. 2018;45(2):167-180. )
料理は”Engage”を促す
「食べる」という本能的、普遍的な行為に深く関係する「料理」に対しての興味もかなり本能的に近いものと解釈できます。この強い「興味」はPERMAの engagement と大きく関与すると考えられています。
また、料理は、運動、思考、柔軟性、戦略など、心理的社会的健康に関連する特性につながりうる多くの能力の複合的活用を要する高度なものとも解釈でき、チャレンジする姿勢が促進されます。
自身の能力とチャレンジのバランスにより、フロー状態(engage)を生み出しやすくなります。
料理は”良き関係”を促す
人類学的研究によると、何世紀にもわたって人類は調理し食事を複数人で一緒に共有してきたことが示唆されています。(Science. 2020 Jan 3;367(6473):87-91. )
料理から得られる喜びの一部は、料理が社会的な機会や大切な人と過ごす時間と正の相関があることに由来しており(J. Bus. Res. 2013;66, 1211–1218. )、
家庭料理の大きな利点は、社会的なつながりを促進することであると考えられています。(British Food Journal. 2012;114(8):1184-1195.)
高齢の女性を対象とした研究によると、料理をする意味は、他の人に楽しんでもらうことにあります。(J. Appl. Gerontol. 2000;19(4):405-423.)
家族を対象とした研究によると、家族に料理を提供することは、親が健康的な食習慣のロールモデルとなり、食について親子の積極的なコミュニケーションをとる重要な機会となることが示唆されています。(Pediatrics. 2014;134(5):923-932. )
料理は自身の意味・意義を見出す
親、配偶者、介護者などは料理をすることに「役割や責任を果たす」という意味を見出しています。(Nutrients. 2020;12(1):198. )
両親と10代の子供を対象とした研究によると、両親は料理をすることで、子どもの健康管理の役割を担える感覚を得られます(Br. Food J. 2012;114, 1184–1195.)
料理により達成感を感じる
人々は他人が作ったものよりも、自分で作ったものを高く評価する傾向があり、「IKEA効果」としても知られています。(Cognition .2018;170, 245–253. )
同様に、人々は他人が作った食事よりも自分で作った食事を好みます。(Food Qual. Prefer. 2014;33, 14–16. )
家庭料理をすることは、個人的な達成感を促す機会となります。(J. Consum. Cult. 2004;4(3):361-384. )(J. Consum. Cult. 2015;15(1):48-65.)
そして、料理は自己効力感と自信の向上を促します。(Prev Chronic Dis. 2014;11:E193. )
料理はヘドニアとニューダイモニアの双方を兼ね備える
以上のように料理はPERMAを促し、我々のウェルビーイングの向上を促してくれます。
料理に取り組む時、我々は楽しみとリラックスを感じ得ます。つまりhedonic well-beingを示すとも言えます。そして、上記のように料理後はPERMAを促されeudaimonic well-beingを示します。
料理はヘドニア、ニューダイモニア双方のwell-beingを兼ね備えており、特にコロナ自粛でストレスフルな生活においては推奨される活動と考えられます。( Front Psychol. 2021 Mar 18;12:635957. )
料理はマインドフルネス
さらに、料理は五感を活用しますし、今この瞬間に集中しマインドフルな姿勢を促すものと推測されます。歩くことや呼吸することなどの日常的な活動でマインドフルネスが培われるように、料理は集中して現在の瞬間を意識する機会を提供すると考えられます。
もちろん家庭料理そのものも心身に良い
家庭料理は外食よりも野菜や果物が多くなる傾向があります。そして、果物や野菜の消費は、よりポジティブな幸福感と関連しています( Am. J. Public Health 106, 1504–1510. )。つまり、外食よりも家庭料理を食することでポジティブな幸福感を感じやすいという理屈になります。
果物、野菜に限らず、食事の質が高いことは身体的健康はもちろん、心理的健康と関連していることを示す研究は多いです。
食生活の改善が心の健康と幸福を高める可能性のある生物学的経路には、
・炎症のマーカーの改善
・酸化ストレスを軽減する抗酸化物質の摂取量の増加
・微生物叢の腸脳軸(腸内細菌と脳の関連)の変化
などが挙げられます。(Proc. Nutr. Soc. 2017;76, 427–436. )
料理するには時間的余裕が欲しい!!
料理したいけれど、時間がない、忙しくて疲れている、、、など障壁が多々あることも事実です。また、毎日毎日毎日毎日家族のために義務として作っていると流石に嫌気がさしてくることもあるでしょう。
料理によるポジティブな効果を体感するためには、気持ち的な余裕、特に時間的な余裕がある程度必要と思います。
時間を制限される理由は、仕事だったり、子供の世話など、人により様々だと思います。それらを効率的にこなす仕組みを作り、料理を楽しむ時間を確保したいところです。
どうしても忙しい、、という人も料理に対するマインドセットを変え、意識的に「楽しむ気持ち」を持っているだけでもちょっと前向きになれるかもしれません。
料理をすることは
・PERMAを促進します。
・ヘドニア、ニューダイモニア双方を兼ね備えます。
・マインドフルになります。
その結果できた料理も野菜や果物が多くなるなど、食事の質が上がります。
様々なプロセスで料理は、心身の健康、ウェルビーイングを促します。
自分は全く料理しないのですが(苦笑)、このブログ書いていたら料理してみたくなりました!
まとめ
【主な参考文献】
・Farmer N, Cotter EW. Well-Being and Cooking Behavior: Using the Positive Emotion, Engagement, Relationships, Meaning, and Accomplishment (PERMA) Model as a Theoretical Framework. Front Psychol. 2021 Apr 12;12:560578. doi: 10.3389/fpsyg.2021.560578. PMID: 33912092; PMCID: PMC8071848.